ちょっとした動きにこだわると見えてくるもの・・

競技経験のない研究者・科学者は、その競技で言われている先入観がないので物事を客観的にみる癖があります。それが、現場の常識からは否定的に捉えられる
ことも多くありますが、考え方によっては指導者の視野を広げることにも繋がります。

どのスポーツ動作でも指導者の考えが反映されるのが、動作のフォームに関する指導です。

いつも同じ指導をしている人もいれば、選手によって指導のポイントを変えたり、言葉の使い方を変えたりする人もいます。

指導者・治療者・教育者どの分野のトップの方々を見ていても、優秀な人というのは観察力が違います。

人が見ていないものをどれだけ見えるかが、重要です。

動作に関するフォームだけでなく、普段どういった姿勢を取り、どのように座っていて、どのように動いているかを観察できれば見え方が変わってきます。

僕が面白いなぁと思うのは・・

“そういうところまで、みてるんだ”

って気づいた時です。

結果を出す人は、人とは違う視点で物事を見ています。

いくつか例を挙げて考えてみたいと思います。

股関節の動き・・

選手に教えるときに、難しいなぁと思うのが

こちらが運動学的に伝えたいことと選手が感覚的に捉えている動きのイメージが異なる時です。

例えば、股関節の内旋ー外旋という動きです。

共通の言語ができると理解しやすくなるので、運動学的な用語を指導者・選手が使えるようになるといいなぁと思っています。

簡単に、股関節の動きを説明すると、脚をあぐらをかくように座るときには股関節は外旋の動きになり、女の子座りをするときには股関節は内旋の動きになります。

股関節は骨盤と大腿骨の2つの骨を繋げた関節なので、股関節の動きと骨盤の動きは連動しています。

普段の姿勢から股関節の動きやすさは推測することができるのです。

あぐら(胡坐)をしやすい人は、股関節の外旋の動きが大きい傾向にあり、正座や女の子座りをしやすい人は股関節内旋の動きが大きい傾向にあります。

スポーツ動作に与える影響

股関節や骨盤の動きは、身体全体に影響を与えます。

例として、下の図を比べてみたときに

①ボールがどこに飛んで行きそうか?

②2つの動きの違いはどこにあるか?  を考えてみます。

つま先の向きと顔の向きが違います。

この2つの違いによって、ボールの飛んでいく方向が予測できます。

私達はボールを蹴る前の動作から動きを推測し、シュートをブロックしたり、パスコースを予測しているのですが、これらの予測は通常・・

頭の中の無意識で処理されています。

そのため、なぜあの選手はあんなボールが蹴れるのか、どうやって身体を動かしているか考えることはありません。

しかしながら、動きを細かく見ることによって、良い部分を盗み取り入れることができるようになるのです。

些細な動きにこだわるのはなぜか・・

優れたパフォーマンスを示す場合、科学的に検証すると必ず理由が見つかってきます。

先程のボールキックの場合には、ボール対して少しつま先を外側に向けて踏み込むケースのほうが多いのですが、つま先を外側に向けるメリットは何でしょうか?

理由の一つは、つま先を外側に向けたほうがお尻の筋肉が働きやすく、軸足が安定すると同時に骨盤を回旋させやすく、蹴り脚の振りを速くすることができます。

試しに、お尻の穴を締めるように、臀部に力を入れようとするとつま先を外側に向けたほうが力を入れやすいのがわかると思います。

これは、臀部の大殿筋という筋肉が股関節の外旋作用を持つため、筋肉の走行を考えた場合に力を入れやすい構造になっているからです。

カヌーで考えると・・

前回の続きから・・、こうした知識をどのように活かすかを考えます。

カヌーのカナディアンという競技で後ろ足を真っ直ぐに置く選手と少し内側に入れて股関節を外旋させる選手の2通りのパターンが見られます。

実際には、この些細な動きにこだわる人は少ないかもしれません・・

運動学的にみるということ・・

後ろ足を少し内側に入れると股関節は外旋した状態で、連動して骨盤は後方に回旋しやすくなります。

これは、パドルを水に挿して後方に引くときに大きな力を発揮することができるメリットがあります。

一方で、骨盤が後方に回旋しやすい代わりに、前方に動かしにくいデメリットがあります。

後ろ足のポジション

脚を真っ直ぐにする

メリット:骨盤を前方に動かしやすい。前方からのキャッチがしやすく、重心を下げてパドルに力をかけやすい。

デメリット:骨盤の後方回旋しにくく、体幹の回旋が使いにくい。パドルを引く際に、体幹の力を伝えにくい。

脚を内側に入れる(股関節を外旋)

メリット:骨盤を後方に動かしやすい。体幹の回旋を使って、強い引きを生み出す。臀筋が使いやすいので、後ろ足が安定しやすい。

デメリット:骨盤が前方に動かず、前からのキャッチをしにくい。重心を下げて、パドルに力を入れにくい

動きを作るために必要な要素

どちらの動きにもメリット・デメリットがあり、そのバランスを考えながら微調整を繰り返すことが必要です。

ある動きを作りたいと考えていても、選手の骨格や関節の柔軟性、普段の姿勢や動かし方によっては目標とする動きが非効率な場合もあります。

例えば、どうしても骨盤を前傾させたい選手がいたとして、股関節の柔軟性がどうやっても改善しない選手がいたらどうでしょうか?

関節の柔軟性は、先天的(生まれつき)なものも影響するので、全ての人がストレッチをすれば必ず柔らかくなるものでもありません。

限られた条件の中で、伸ばせる部分を考えるべきです。

選手の股関節の柔軟性や体幹の強さ、目標とする動きに応じてセッティングを変えていくことが求められます。

また、水上でのバランスの取りやすさや力の入れやすさなども考えていかなければいけません。

些細な動きの違いが全身に与えている影響を考えることが大切です。

逆に言うと、少しの違いによって選手の動きやパフォーマンスが大きく変わる可能性を秘めているとも言えるのです。

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