体幹トレーニングは、トレーニングとして一般に認知されてきましたが、神経科学的にトレーニングを考察しているものはほとんどありません。
トレーニングの具体的な方法について解説しているものは多く存在していますが、正しいトレーニングのメカニズムについて解説しているものは少ないのが現状です。
体幹筋が働くメカニズム
体幹のトレーニング一般化してきた背景は、“あらゆるスポーツ動作において体幹が安定していることが重要である”という感覚的なところからスタートしています。
その中で、体幹のインナーマッスルが重要であるという流れが形成され、インナーとアウターという言葉が出てきました。
インナーとアウターの説明としては・・・
インナーマッスル:体幹の深層にある筋肉で関節(骨と骨を繋ぐ)の安定に重要とされる。具体的には、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋を指すことが多い。
アウターマッスル:体幹の表層にある筋肉で力を発揮するために重要とされる。具体的には、脊柱起立筋、腹直筋、内外腹斜筋を指す。
インナーマッスルが働かないと、関節が不安定になるため、パフォーマンスに影響が出たり、障害につながると考えられています。
現場で使うための応用知識
まずは、臨床系の人たちが好む情報から提供していきます。
とりあえず、すぐ使える知識が欲しい方は前半だけお読みください。
体幹トレーニングは数多く存在するのですが、とりあえずトレーニングメニューとして行なっている場合が圧倒的に多いので、トレーニングの意義や目的を考えて提供しているのか考えることが重要です。
メニューを組み立てる際に考慮すべき点をお伝えします。
安定性によって変化する
支持面が安定しているか、不安定かどうかで筋肉の活動が異なります。
一般的に不安定な状態の方が、アウターが活動しやすくなります。アウターの活動に伴ってインナーの活動量も増えるのですが、不安定すぎるとインナーの活動を促すことができません。
インナーはアウターに先行して働き、関節を安定させることが望ましいのですが、支持面が不安定すぎるとインナーが早期に活動してくれないデメリットがあるので注意が必要です。
支持の仕方で変化する
両手・両足支持の状態と片手や脚の支持の仕方によって、筋活動が変化していきます。
片手や片脚支持の場合には、片側の重量を支える力が必要になるので回旋の筋肉が活動しやすくなります。
両手・両足支持 = 直列的な筋肉が活動しやすい(矢状面)
片手・片脚支持 = 回旋に必要な筋肉が活動しやすい(水平面)
意識して働かせるのは正しいのか・・
整形外科やスポーツ分野で働くトレーナーや理学療法士が、インナーマッスル(腹横筋)を活動させるためによく使うのがドローイン(Draw-in)と呼ばれるエクサイズです。
これは、息を吐いたり、お腹を凹ませることによって腹横筋を意識的に使うことによってインナーマッスルを活性化させる方法です。
臨床系思考で考えている人は、教科書的な知識でトレーニングを組み立てるのが一般的だと思います。
しかし・・・
インナーマッスルを意識的に活動させる方法としてドローインが定着していますが、意識的に活動させることは正しいのでしょうか?
批判的にみること、水平思考で考えることによって、視座が上がります。
体幹の筋活動の神経科学
ここからは、研究系・神経科学的視点で体幹トレーニングをどのように組み立てるかお話していきます。
体幹の重要性として、よく使われるのが四肢の運動に先行して腹横筋が活動するという研究です。高いパフォーマンスを発揮するためには、手足を動かす前に体幹を安定する必要があり、そのため腹横筋の活動が重要と考えられています。
実際に、体幹が先行して働くのは神経のメカニズムに依存しています。
神経科学の視点から考えると、手足を動かすこと(四肢の随意運動)に先行して体幹が安定することを
先行性姿勢制御(anticipatory postural adjustment :APA) と言います。
体幹が先行して働く神経経路と手足を意識して動かす神経経路は異なります。
先行して体幹筋が活動して姿勢を安定させるのは、脳の中でも第6野とよばれる部位で、運動の計画や開始に影響を与えます。運動が計画されることによって、まずは体幹が安定するスイッチが第6野から指令が出ています。
第6野の活動が起こった後に第4野に指令が行くことで、手足の運動が次いで起こるようになっています。
このAPAは手足の動きを行う際に、重心の変化や筋活動を最小限にする目的で体幹の活動を行うと考えられており、無意識な活動です。
APAの活動は無意識的に筋肉を動かす神経のルートであり、自分で意識して働くものでは無いと考えられます。
姿勢を安定させる神経の活動は腹内側系と言われて、体幹の筋肉を支配しており、四肢の意識的な活動を支配する外側系とはルートが異なります。
ある程度予測ができる状態で、姿勢を安定させるために随意的な動きに先行して行われます。
つまり、姿勢を安定させる腹横筋は、予測的に無意識で活動する特徴があります。
そこで、スポーツ現場で用いられているドローインを考えてみると、ドローインは意識的に筋肉を収縮させているため、無意識で活動するAPAの目的とは少し異なる点があります。
神経科学の視点から考えると、ドローインのトレーニングが実際のスポーツ動作に必要な体幹の活動につながっているかは疑問が生じるところです。
姿勢制御を向上させるには・・
体幹の先行的な活動を促すためには、神経学的な視点を踏まえて取り組むことが大切です。
大切なのは動きの中で、体幹の安定を作っていく方法です。
体幹(骨盤)のコントロール
体幹の筋肉を活動させるために重要なのは、骨盤をコントロールすることです。体幹を安定させるためには、骨盤をニュートラル(中間位)に持っていく必要があります。
これは、骨盤が前傾しすぎたり、後傾しすぎると腹筋と背筋のバランスが崩れるので、安定した筋活動が行えないためです。
まずは、背臥位の状態でブリッジ動作を行います。この際に、よく起こるのが大腿四頭筋や背筋を過剰に使った動作です。体幹を安定させるためには、腹筋に力をいれて、大臀筋(お尻の筋肉)を使ってブリッジを行うことが望ましいです。
また、背臥位で骨盤の前傾・後傾をコントロールできるようになったら、座位で動作を行います。骨盤だけを分離して動かせる状態になると、骨盤をニュートラルな位置に持っていくことが可能です。
ニュートラルの確立→不安定環境の設定
骨盤がニュートラルな状態にできてから、徐々にトレーニングの難易度を上げていきます。
安定から不安定にするには幾つかの方法がありますが、大切なのは安定しすぎても不安定すぎてもAPAが機能しないということです。
バランスボールを使ったトレーニングでは、両足接地→片足接地→両足日接地の順番で体幹の活動の程度を見ながら段階的に行っていきます。
体幹の活動をみるときのポイントとして、過剰な筋活動が誘発されていないかを注意してみます。また、骨盤のニュートラルが保てているかもポイントです。
もしも、過剰な筋活動が見られる場合は、不安定環境を見直すことと過剰に働く筋群をストレッチやリラクゼーションにて、活動を抑制する必要があります。
臥位→座位→立位→片脚立位
また、不安定環境を設定する上で姿勢を臥位から立位へと段階的に上げていきます。
段階的に挙げる理由は・・
姿勢が変わると重心が高くなっていくので、抗重力筋の活動が働きやすくなるためです。抗重力筋は無意識に筋緊張を高めてしまうため、不必要な努力的活動を引き起こしやすいのです。
また、段階的に上げていくにつれて不安定環境も調整していきます。
片脚バランスのトレーニングを例に挙げて、不安定環境を設定の仕方を考えます。
・ 床面の硬さで調整 (バランスパッドやディスクの使用)
・ 床面の面積で調整 (幅の狭いハーフポールや板などを利用)
・ 床面の滑りやすさで調整(滑りやすい床面や靴下の着用)
適切な負荷量と課題の設定がポイント
ただ闇雲に、フロントブリッジやサイドブリッジのような体幹トレーニングを取り入れても安定した姿勢の学習にはつながりません。神経科学的な知見を取り入れて、戦略的に姿勢を作る意識は大切です。
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