アーム式の投球動作を科学する

投球動作の中でも、アーム式の投法については一般的に怪我が起こりやすい投げ方として浸透しているようですが、科学的に分析してみます。

アーム式投法とは・・

アーム式と呼ばれる投げ方は、腕を後方に動かす際(テイクバック時)に肘関節を伸ばしたまま投げることを指します。

アーム式については、下記のようにいろいろなサイトで紹介されていますが、本サイトなりの科学的解説をしたいと思います。

高校野球やプロ野球の選手においても、アーム式は一定の割合でみられます。

アーム式は良くない投げ方とされていますが、科学的に考えてみます。

ハンドボールの論文から考える

通常の投げ方とアーム式を比較している野球(baseball)の研究は見当たらないのですが、ハンドボールの研究で似たような研究がありました。

Van den tilarr et al. Comparing performance and kinematics of throwing with a circular and whip-like wind up by experienced handball players. Scand J Med Sci Sports. 2013 Dec;23(6):e373-80.

ハンドボールにおいても、肘を伸ばしたまま下から円を描くように投げる方法(Circular)と肘を曲げたまま上からテイクバックを行い、反動を利用して投げる方法(Whip-like)の2つの投げ方があり、これらを比較したものがあります。

野球に置き換えると、Circularがアーム式、Whip-likeがノーマルな投げ方と言えると思います。

2つの投げ方の違いは?

この研究で分かったことは、Circularの動作の方がボールスピードが速く、骨盤の動きが大きかったということです。また、投球動作の全体の時間も長くなっていました。

ボールスピードが速くなる原理は、肘を伸ばしてボールが身体から離れれば離れるほど、遠心力を利用してボールに力を加えることが出来ることが考えられます。また、遠心力を支えるために、体幹や骨盤の動きがおおきくなることも特徴です。

一方で、回転の半径が長くなる分、投球軌跡の距離が長くなるので、投球動作に時間がかかることになります。

肘を伸ばして固定するメリット

アーム式はボール速度が上げやすいメリットに加えて、もう一つ運動制御の観点からアーム式にメリットがあります。

それは、コントロールがしやすい可能性です。

投球動作は基本的には全身運動で、下半身から骨盤を回旋させ、体幹を回旋させ、肩関節、肘関節、手関節、指先の順番に関節を順番に連動させることになります。これを専門用語では 運動連鎖 (kinetic chain) と呼びます。

実は、この運動連鎖は非常に高度な神経の調整が必要であり、すべての関節がタイミング良く連動しないと高いパフォーマンスが発揮できません。

アーム式のメリットは、肘関節を伸ばして固定することによって、制御する関節を一つ減らせることができます。

例えば、投球の正確性が求められるダーツ投げやバスケットボールのフリースローを思い浮かべてもらえればわかりますが、動作時のほとんどが肘関節だけの動きです。

負担はどうなのか?

アーム式には、肘を伸ばすことによる遠心力を使ったボールスピードの向上と関節を固定することによるコントロール向上の可能性が科学的に考えられますが、怪我の可能性についてはどうでしょうか?

アーム式は肩関節への負担が大きい

肘を伸ばして投げると、どうしても肩関節からの距離が遠くなってしまうので慣性モーメントが大きくなるために、肩関節の負担が大きくなります。

一方で、肘は固定しているので下図のような前腕のしなりによる肘の靭帯損傷のリスクは通常のタイプよりも少ないと考えられます。

肘を伸ばしたまま肩を後方に引くと、上肢全体に遠心力がかかるために肘を曲げている状態よりも後方に腕が引かれてしまいます。その状態から上肢を前方に持ってくる際に、どうしても肩に負担がかかってしまいます。

そのため、肩周囲の腱板(インナーマッスル)や上腕二頭筋などの筋肉や腱に負担がかかってしまいます。

なぜ、アーム式を修正できないのか?

少年野球の指導者の中でも、アーム式を修正させたい方は多くいらっしゃいます。なぜ、子どもたちがアーム式で投げているのかというと・・

アーム式の要因は?

・肘の関節を制御しなくて投げられるから

・力を入れて投げられるから

アーム式は常に上肢に力が入っている状態なので、自分でコントロールしている感覚が強い状態です。例えば、コッキング動作の時に腕を後方にしならせる(肩関節の外旋・水平外転)をするためには、微妙に力を抜かないと腕をしならせることはできません。

関節を協調させて、全身をムチのようにしならせる動きは、運動制御の観点から考えると高度の神経の働きが必要なのです。

もしも、アーム式を修正しようとした場合は、神経の再調整が必要なので一時的なパフォーマンスが下がることも覚悟しておく必要があります。

アーム式のメリットとデメリットを考慮して指導しよう‼️

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