視野を広げるとはどういうことか?

当たり前に思うことですが、基本的な動作に関しては教わるものではありません。

運動は発達の流れの中で獲得していくのですが、与えられたわずかな課題の違いによって動きが変わることは多々あります

キック動作を例に分析してみます・・

私達が見る機会が多いのはプロのサッカー選手の映像です。

プロのサッカー選手の動きは大切ですが、この動作をすぐに幼児に求めることはできません。

運動学的に分析してみると、トップの選手になるほど、骨盤の回旋に加えて、体幹ー股関節ー膝関節が順番に動くことでムチの動きのようにしなって蹴るようになります。各関節が連動して動くことを“運動連鎖”などと呼んだりします。

どうやって動作をはじめているのか?

指導者が考えなければいけないことは、その動きがどのようにして発達の中で形成されてきたかを考えることが必要です。

常にプロのサッカー選手の動作を見ている私達は実はこの発達の順番を知らないために、適切な段階を教えることができていません。

例えば、キック動作の発達を考えてみると、

幼児の動きはトゥーキック(つま先でボールを蹴り出す)から蹴る動作が始まります。

このトゥーキックは、運動学には膝関節(大腿四頭筋)しかほとんど働いていません。足首も十分に固定できておらず、脚を後ろに振り上げて股関節を大きく使うこともありません。

幼児は多くの関節を使ったり、たくさんの筋肉を使うことができないためにこうした動作になってしまいます。

成長に伴って、脚を大きく振り上げたり、足首を固めて蹴るようになるのです。

ある程度、成長すると足首を固めてインステップキックができるようなるのですが・・・

どうやったらインステップキックができるのでしょうか?

関節の構造と機能

まず、トゥーキックから始まる理由の一つですが、足首は下に向いた状態(底屈)の方が関節が不安定になります。そのため、足首が上に向いた状態(背屈)の方が関節が固定されやすく、力を伝えやすいメリットがあります。

底屈の状態でキックを使用とすると、足首周りの筋肉を使って固定する必要があるので、足首を下に向けたままボールを蹴るのは幼児には難しいのです。

つまり、関節の位置によって、運動のしやすさが変わるということです。

いかにして運動をしやすい状態を作るかが重要です。

それでは、インステップキックがしやすい状態とは・・

力を発揮するポイントの違い

実は、幼児にとってはインステップキックは

ボールが浮いている方が最初は蹴りやすいのです。

ボールが地面にある状態では、股関節を曲げて足底を少し浮かせた状態で膝を動かし、さらに足首を固定させて使わなければいけません。

一方で、ボールが浮いている状態であれば、股関節と膝関節の振りきった後にボールを蹴ることになるため、足首を底屈位で使いやすいと考えられます。

3次元空間の中で、どのポジションに物があるかによって、力の発揮の仕方が変わってきます。

どの状態が、その幼児にとって最も力を発揮しやすい環境であるかを考える必要があるということです。

これが子どもの動きを作るために必要な考え方です。

セッティングの重要性

関節の位置や運動方向、セッティングの状態によって力の発揮は変わります。

これをカヌー競技に応用して考えてみます。

カナディアンという競技においては、不安定な艇の上に身体を乗せているため、少しのポジションの違いによって、バランスや力の入れ具合は大きく変わります。

例えば艇に乗った状態で、後ろの脚はどのような位置・向きをしているのでしょうか?

多くの人は、競技を見るときには横方向からの映像しかみていません。

しかしながら、後方から動きをみると視野が拡がります。

①後ろ足を真っ直ぐにした状態

②踵を左側に寄せて、つま先を外に向けた状態

カヌーのカナディアン競技は艇を真っ直ぐに進める競技であるため、足の向きも真っすぐのほうが良さそうです。

しかしながら・・・

トップ選手の後ろ足をいろんな角度からみると、違った足の位置や動きが観察できます。

足を真っ直ぐに置いた場合と足の向きを傾けた状態では身体(骨盤)の運動方向やパドルに加わる力の向きが異なってきます。

股関節の柔軟性や体幹の筋肉の使い方によって、使いやすさが変わってくるのでどちらが正解とは明確には言えませんが、真っ直ぐが全てだと思っている状態とは指導の方法が変わってきそうです。

どの位置が最も選手にとって力を発揮しやすいポジションなのか日々の発達の中で考えることが必要です。

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