前回の肘関節の障害に次いで、今回は肩関節の障害です。
肩と肘の障害は投球障害の中心ですが、多くの研究で障害のメカニズムは解明されてきています。
障害のメカニズムについては、医療関係者やトレーナーは知っている場合が多いのですが、現場の指導者に浸透していないことがよくあります。
分かっていても、その現象をどのように選手に伝えるかは指導者の言語の質が問われます。
感覚的な言語に頼らずに、解剖学と運動学の知識をベースにスポーツ医学の観点から解説します。
投球動作は後ろに腕を引いてから、重心移動を行い、腕を振り切る動作ですが、動作は各相に分かれています。
今回は、腕を後ろに引いた際の動きについて解説します。
ワインドアップから腕を後ろに引いて加速の準備段階の相を専門用語ではCocking(コッキング)と呼びます。
Cocking期は投球障害肩が発生しやすい相
Cocking期のポイントは2点です。
- 肩関節の過剰な外旋
- 肩関節の過剰な水平外転
腕を加速させるためには、上肢全体を一旦後ろに大きく引いてから加速する方略を取ります。
この際に、上腕が体幹のラインよりも後ろに遅れた状態が障害が発生しやすい投げ方です。
解剖学的に説明します。
肩甲骨には関節の向きがあり、このライン上に上腕骨が位置すると関節には負担がかからない状態です。
しかしながら、勢いをつけて腕を大きく後方に引いた場合には上腕骨が肩甲骨の面に対して後方にズレたまま投げようとします。
このズレが起こった際に、肩回りの筋肉である棘上筋や上腕二頭筋の腱が上腕骨と肩甲骨(肩峰)の間に挟まって痛みが生じます。
専門用語では Internal Impingement(インターナルインピンジメント)などと呼ぶこともありますが、関節の中で挟み込みが起こっています。
痛みの部位で考える
痛みの場所と疼痛が生じる動作によって、障害を推測することが可能です。
- 肩の側方から軽度後方 → 棘上筋・棘下筋の腱板の問題
- 肩の前方から上方 → 上腕二頭筋の腱の問題
- 肩の中(奥の方) → 関節内の炎症の問題
あくまでも目安ですが、診察の基本は動作と部位で特定します。
痛みが長引く場合は専門家へ
投球後の一時的な疲労や軽度の炎症であれば、2−3日で痛みのピークを迎え、1週間程度で痛みは治ります。
2〜3週間程度痛みが続くようであれば、専門家の受診で肩の関節に炎症や損傷が起こっていないか検査してもらいましょう。
簡単な専門家の見分け方は
肩関節の診察で、超音波診断(エコー)は必須です。エコーは、診察に時間がかからず、炎症や損傷の程度を評価できる極めて有用な装置です。
操作や描出に専門性が必要ですが、多くの症例を見ている先生であれば数分あれば病変を探すことが可能です。
肩の軽い炎症であれば、腕を後ろに引かないように投げれば何とか投げれてしまいます。しかしながら、無理に腕を捻ったり(肩の内旋)すると肘にも影響が出てくるので注意が必要です。
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