本当のところ:前十字靭帯損傷の復帰率

研究はわかりやすく、シンプルな内容が一番です。

前十字靭帯損傷と足関節の捻挫については、世界で最も障害予防の研究がされているケガです。

特に前十字靭帯損傷は、損傷後の大半が手術を受ける傾向にあり、復帰までの期間が長く、再断裂が起こることが問題にされています。

しかしながら、その競技復帰率や再断裂率について明確に示している研究は少ないのですが、少し前にまとめられたレビューが報告されましたので、紹介します。

エリートアスリートが競技復帰する確率は?

2018年に英国のスポーツ医学雑誌に掲載されたレビュー論文です。

レビュー論文とは、様々な研究結果をまとめて報告する内容であり、業界の一般的な流れを整理するためには有効なものです。

エリートアスリート(プロレベルの選手)が、競技前のレベルに復帰できる確率は? という内容です。

Lai, C.C.H., et al., Eighty-three per cent of elite athletes return to preinjury sport after anterior cruciate ligament reconstruction: a systematic review with meta-analysis of return to sport rates, graft rupture rates and performance outcomes. British Journal of Sports Medicine, 2018. 52(2): p. 128-138.

論文のタイトルに結論を出す秀逸さ

競技復帰としては、論文のタイトルにあるように・・

これらの研究では、術前と術後のレベルが報告された24の研究結果を示したものです。

対象競技は研究別にみると・・

4:サッカー選手、4:アメリカンフットボール選手、1:ラグビー選手

3:バスケットボール選手、2:アイスホッケー選手、2:スノースポーツ選手

1:アルペンスキーヤー、1:フリースタイルスキーヤーとスノーボーダー

1:野球選手、1:ハンドボール選手、3:様々なスポーツからの参加者

3:スポーツ報告なし

スポーツ復帰までの期間は・・

実際のスポーツ復帰までの期間ですが・・

前十字靭帯損傷は、競技復帰までの期間が医療機関や医師の方針によって、様々です。実際に、世界的にみても復帰の時期は平均期間で見ても半年程度の差があります。

研究別復帰期間

平均6か月以内:研究数1つ

平均6〜9ヶ月:研究数6つ

平均9〜12ヶ月:研究数6つ

平均12〜13ヶ月:研究数2つ

競技別復帰期間

サッカー選手:術後6〜10.2ヶ月

アメリカンフットボール選手:術後8.2〜13 ヶ月

ラグビー選手:6ヶ月以内

バスケットボール選手:術後10.7〜11.8か月の間

アイスホッケー選手:術後平均して7.8〜9.8か月の間

競技によって若干のばらつきがあり、ラグビーが6ヶ月以内となっているのは、報告されている研究の数が1つしかないために、偏った結果となっています。

再断裂の確率は・・

前十字靭帯損傷後に再建術を行った後に、再び断裂することが比較的多い手術であるとされていますが、実際にどれくらい再断裂があるかというと・・

平均して5%程度です。

今回の研究で報告されていたのは、3つの研究結果のみですので、比較的再断裂の割合が低い結果となっています。

他の研究では、エリートアスリートでは無い場合では、20%程度と報告されている研究もあるため、エリートアスリートの場合では身体能力が高く、再断裂の可能性が低いことが考えられています。

復帰後のパフォーマンスレベルは・・

損傷の前と後で、パフォーマンスのレベルが実際にどの程度変化するかと言うと・・

エリートレベルの場合では、パフォーマンスはほとんど変化が無いという結果です。

スポーツ復帰の決定要因

復帰に影響を与える要因というのが、競技別に報告されています。

いくつかの研究では、チームにとってのその選手の価値がスポーツへの復帰の決定要因であることが確認されています。

アメリカンフットボール:NFLドラフトの早い段階での選出、大学のスポーツ奨学金の獲得状況、チームでの高いレベルのアスレチックスキルまたは価値を示す評価尺度、→高い復帰率に関連していました。

アイスホッケー:負傷前のシーズンにゴールまたはアシストが多かったNHLプレーヤーは、以前のレベルのパフォーマンスに戻る可能性が高い。

根拠のあるデータを示すということ

実際にプロレベルの選手を担当するときには、客観的なデータを持っておくことは重要です。

今回のように、前十字靭帯損傷のケースでは多くのデータがインターネットを含めて報告されていますので、どのデータを用いて説明するかは非常に重要な問題です。

世界最高峰の雑誌におけるレビューを引用することは、根拠を示す上で有用

であることを知っておくと良いでしょう。

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