運動指導の方法には、注意を向ける方法が大きく二つあり、内的焦点(Internal Focus)と外的焦点(External Focus)というものがあります。
どのような指示の仕方がパフォーマンスに影響を与え、運動学習を促進するのかが日々研究されています。
前十字靭帯損傷のリハビリを考える
内的焦点と外的焦点の違いについて、前十字靭帯損傷のリハビリテーションを例に考えてみます。
前十字靭帯損傷は、下図のような状態で障害が発症します。
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特に、ジャンプの着地動作などにおいて、膝が着地時に内側に入ってしまう動作が危険なポジションと考えられていて、
膝が内側に入らないように気をつけること
が重要なポイントであるとされています。
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この現象に対して、運動指導をする場合に注意を向ける方法が2つあるのです。
内的焦点(internal focus) : 自分の内部に注意を向ける(身体の部位や重心に意識を置く)
外的焦点(external focus):外部の対象に注意を向ける(身体の外側に意識を置く)
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内的焦点では、自分の膝がどのようなポジションにあるかを意識することで、自分の身体の感覚と自分の運動の感覚を両方使うことになります。
一方で、外的焦点では、自分の膝を対象となるものに向けて動きを作ることになり、運動の出力のみに感覚をつかうことになります。
外的焦点の方が運動の習得と制御に優れる
多くの研究によると、外的焦点の方が複雑な運動技能の習得と制御により適していると考えられています。
内的焦点では、自己知覚に関連する神経システムとその応答に対する運動の神経システムの両方の神経活動を引き起こすため、脳処理が複雑になることでパフォーマンスが低下するとされています。
一方で外部焦点では、動きそのものよりも、動きの結果に注意を向けることによって、行動を自動化することができ、意識的な制御の負担を減らすことで運動のパフォーマンスを向上させることができると考えられます。
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内的焦点と外的焦点の具体例
内的焦点と外的焦点の指導の仕方は、様々なスポーツに応用可能です。
まずは、ゴルフでの研究例を紹介します。
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内的焦点では、自分の身体の重心にフォーカスしており、外的焦点では地面という対象に力を入れることにフォーカスしています。結果としては、地面を押すという運動にフォーカスした方が、動作が実行できやすいというメリットがあります。
重心というものは、外部からは評価しにくですし、指導者が思っている重心と選手が思っている重心に違いが生じることがあると指導が上手くいきません。
また、カヌー競技を例にすると
パドルの軌跡を考えると、まっすぐ引くよりも外側に円弧を描くような軌跡が理想的であると考えられています。
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一般的には、内的焦点に注意を向けた指導(肩や肘、腕を〜する)が多いのですが、パドルをどのように使うか、どの方向に力を入れるか、どのような軌跡を描くかを意識させた方が、狙った動きを引き出しやすいという特徴があります。
これらが、外的焦点に注目した指導の方法になります。
内的焦点が効果的な場合
一般的には、外的焦点の方が優れたパフォーマンス結果を示す場合が多いのですが、内的焦点が効果的な場合もあります。
それは、固有感覚(筋運動感覚)が優れている場合です。
固有感覚というのは、自分の関節の位置や運動に関する感覚のことですが、自分の身体の感覚が優れている選手には、内部焦点は有効です。
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固有感覚が優れていると、
指導者が “手をもう少し上げて” “腕を少し曲げて” といった指示を出しても、本人が身体を微調整できる能力を持っているため、修正することが可能です。
ヒトの身体は目的を果たすように設計されているので、目的を果たすことができれば、自分の身体やフォームは気にしないように出来ているのです。
そのため、固有感覚が鈍くても、客観的にみて可笑しなフォームであっても、成立してしまうのです。
運動指導を行う際には、上手に外的焦点を活用して行うことがパフォーマンスアップの近道と言えます。
Wulf G. Attentional focus and motor learning: a review of 15 years. Int Rev Sport Exerc Physiol 2013;6(1):77-104.
Wulf G, Shea C, Lewthwaite R. Motor skill learning and performance: a review of influential factors. Med Educ 2010;44(1):75-84.
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