個人的な意見として、子どもにフォームを指導することに対して否定派の人間です。
子どもは言語と身体に対する神経の接続が乏しいので、言われたことを身体で表現することが苦手です。
もちろん、言われたことをすぐできる子と全くできない子がいるのですが、指導の基本としてはできない子に合わせるのが鉄則です。
指導者の役割は2つであり
① できないことをできるようにすること
② できないことをできることで補うこと
指導時期の違い
トップのアスリートの専門コーチであれば、理詰めと対話で積み上げる形をとることができますが、子どもの場合には言語的理解が乏しいので、大人の言っていることはほとんど理解できていません。
そのため、子どもにあれこれ口だけで指導するのは、子どもの才能を引き出す指導者のすることではありません。
フォームを固めるという悪害
東京大学の平島助教らの研究によると、同一の身体運動でも異なる脳活動によって再現できることが明らかにされています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_240210_03.html
つまり、見かけ上が同じ動きであっても、実際の脳や神経の活動は異なるということです。
コントロールが良いフォームとは・・
投球のコントロールについて話してある興味深い記事を紹介します。
元巨人のエース桑田選手に関する記事です。桑田選手は、コントロールが良い投手として知られていますが、科学的に検証すると面白いことがわかります。
SPECIAL CONTENTS【実践】桑田真澄さんに聞く、勝てる脳と身体のきたえ方
http://sports-brain.ilab.ntt.co.jp/sc_k2_1.html
桑田:僕がコントロール良く投げられるのは、常に同じフォームで投げているからだと思っていたんです。
被験者の中に、一人だけリリースポイントがばらついているピッチャーがいたんですね。ほかの人はほぼ一定のタイミングと位置で投げているのに、一人だけリリースポイントがばらついていたので、思わず「これ、誰のデータ?」と聞いたのです。すると、「桑田さんの結果ですよ」と。「いやいや、そんなはずはないだろう。何かの間違いだろ?」と言ったのですが、何度確認しても僕のデータに間違いないことがわかりました。
フォームは目的の手段にすぎない
これは、どんな競技にも言えるのですが、フォームにこだわりすぎて本質を見失っているケースが多くあります。
一つ例を挙げてみます。
仕事柄、カヌー競技の選手もよく見ますが, カナディアンという種目では、
〝骨盤が艇よりも外側に出てはいけない〟 という指導がなされます。
実際に世界のトップ選手が漕いでいる様子を見ると、違った事実が見えてきます。
下の二つの漕ぎ方を比較して見てください。
上の図は Jストロークと呼ばれる漕ぎ方で、下の図はCストロークと呼ばれる漕ぎ方です。
Cストロークの場合には、完全に艇から骨盤が出ています。
Cストロークでは、艇の傾きを調整するために、少し外側からパドルを挿入しなければいけません。そのため、身体を外側に傾けるために、骨盤を大きく外側にはみ出すことでバランスを取りながら漕ぎます。
カヌー競技の場合には、水上の不安定な状態におかれるので、安定した漕ぎというものはなかなか出来ません。
艇を真っ直ぐに進ませるためには、実は様々なパターンの漕ぎ方をしていることがわかります。
もし仮に、同じパターンの漕ぎ方しかできない場合には、水面が荒れている場合に高いパフォーマンスが発揮できなくなるのです。
真っ直ぐに進めるために、フォームがありますので、フォームにこだわりすぎてパフォーマンスが発揮できない可能性もあるのです。
フォームを変えたい時に気をつけること
指導者が選手のフォームを変えたい時には、相当な覚悟が必要です。
野球で有名な野茂選手やイチロー選手は、フォーム変更を勧められることもありましたが、結果的に自分のフォームを貫いています。
フォームを変えるのは、身体の使い方を全く違うものに変える可能性があるので、筋肉を動かす神経の配線を変えなくてはいけません。
そのため、
フォームを変えるときに、気をつけることは、
① 結果が出るまでに長時間(年単位)かかることを覚悟すること
② フォームを変えると一時的にパフォーマンスが下がることを覚悟すること
③ 選手との確実な信頼関係を築いていること
これらの要素を知った上で、チャレンジするべきだと思います。
指導の仕方については、直接的に身体の部分をああしろ、こうしろと口頭指示することが望ましくないだけで、適切な誘導の方法があります。
次回は、そのあたりの内的・外的焦点における指導法を考えてみます。
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