あなたの障害予防は遅れている・・?

障害予防に訪れた新しい革命

ヒトの身体の進化は限定的であり、100mを9秒台で走る選手が現れてから、ウサインボルト選手が登場するまで9秒8台が精一杯でした。実際に、陸上競技において記録が更新されるのはコンマ何秒、数cm単位の進歩であり、どんなトレーニングを積んでいても、その変化は日々の積み重ねです。

そうした状況の中で、効果的な練習を行うために必要なことが「怪我をしない」という当たり前のことです。

実際に、障害予防に関する研究は過去50年ほど取り組まれているのですが、テクノロジーの進化とともに次の時代に入っています。

世界最高峰のスポーツ医学誌BJSMの関連雑誌でも言及され始めました。

https://injuryprevention.bmj.com/content/26/1/1#ref-10

怪我をしないチームが勝つという現実

サッカーの医学界で有名な1つの研究があります。

これは、世界最高峰のサッカーリーグであるUEFAチャンピオンズリーグの負傷研究の11年間のフォローアップ結果です。

その中で、負傷率が低く、試合に使える選手が多いチームほど、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで成功をより成功を収めたという結果です。

他にも、負傷が少ないチームの方が成績を残しやすいという結果が出ています。

躍進したチームが取り入れた最先端アプローチ

現在までに、多くのチームや指導者は怪我を単なる「不運」として捉えており、完全な障害予防は難しいのものであると考えています。

そうした状況を覆すテクノロジーが確立しつつあります。

世界の最高峰のサッカーリーグであるリーガエスパニョーラにおいて、躍進を果たしているヘタフェというチームがあります。

このチームは、Zone7という会社と提携して人工知能を活用した最先端の障害予防の取り組みを始めたことで一躍有名になりました。

https://www.footballcritic.com/features/getafe-preventing-injuries-before-they-happen-is-footballs-next-data-evolution/553

実はこうした取り組みはここ数年のトピックであり、開発競争が鎬を削っています。

実際に、人工知能を使った障害予防とはどのようなものでしょうか?

Sports tech trains athletes to avoid overuse injuries

https://www.israel21c.org/sports-tech-trains-athletes-to-avoid-overuse-injuries/

What is 3DIMO? Sport tech start-up using AI to predict injuries when athletes train

ビックデータを扱い、人工知能が判断

これまでの障害の要因については、身体の柔軟性が低い(身体が硬い)、体力がない、練習がきついなどの、単純な理由で解釈されていました。

実際に、日本のスポーツ界においても障害予防に本気で取り組んでいるチームは多くありません。

障害が起こるメカニズムというのは、多様であり、1つの要因だけで障害が起こることはほとんどありません。

ビックデータを活用するというのは、体調面や身体面、環境面など全ての状況を数値化することによって、データを蓄積して、過去の研究やデータと照らし合わせて怪我がしやすい状態を予測するということです。

実際に何を見ているのか?

Zone7は、ウェアラブルテクノロジーによって収集された数百万のデータポイントを調べて、個々のチームとプレーヤーの怪我とパフォーマンス要因のパターン認識システムを作成しています。

さまざまなスポーツにおける500万時間以上のパフォーマンスを分析し、

最大95%の正確率で75%の負傷を予測できると主張しています。

・データ収集例:

データに関しては、zone7社はウェアラブル端末を使用して、トレーニングの負荷量(心拍数、移動距離、加速度など)を使っていますが、利用可能なデータというものは数多く存在します。

下記がその一例です

・何を見ているのか?

人工知能が出すのは、障害の可能性を数値化して出すだけです。

人工知能で出される結果の優れている点は、多くの要素を複合的に判断することによって結果が出されるということです。

ヒトのように先入観や思い込み(バイアス)で結果を判断することがありません。

ヒトであれば、

・身体が硬いから怪我をするだろう・・

・疲れているように見えるから怪我をするだろう

といった思い込みで物事を判断しようとしますが、機械は結果だけを重視します。

https://www.footballcritic.com/features/getafe-preventing-injuries-before-they-happen-is-footballs-next-data-evolution/553

例えば、数値が50の選手と80の選手がいたとして、数値が高ければ高いほど怪我の可能性が高いという状況です。

こうしたソフトウェアは、あくまで指導者やコーチの意思決定の補助的な手段です。

人工知能の判断では、どのデータが重要かどうかは、実はわからないことがあります。

簡単に説明すると、囲碁の世界でアルファ碁という有名な人工知能のマシンが誕生しました。

実際に、アルファ碁が打つ碁の位置は、通常のヒトでは理解できない場所に置くことがあります。

アルファ碁は、勝つ確率が高い場所に碁を打ち続けます。

人工知能による判断が行われるようになると、障害予防の常識が覆る可能性がある。

例えば、これまでは身体が硬い人が怪我をしやすいと思われていましたが、人工知能の判断では身体の柔軟性が全く影響しないという結果が出るかもしれません。

また、練習量が極端に高くても、有酸素能力が高い選手や血液データ(炎症の数値、CK値=筋損傷の数値)、唾液データ(免疫系の反応)が良好な選手は全く怪我をしないなどの結果が見えてくるかもしれません。

データの数が多くなればなるほど、予測の精度が高まると考えられています。

ウェアラブル端末がリーズナブルになり、あらゆる身体検査や医療検査が簡便に行えるような時代になり、データを活用できるチームが勝てる時代になっています。

最先端のテクノロジーを活かすも殺すも、現場の人たちのリテラシーの問題と言えそうです。

1.         Gabbett, T.J., Debunking the myths about training load, injury and performance: empirical evidence, hot topics and recommendations for practitioners. Br J Sports Med, 2020. 54(1): p. 58-66.

2.         Hägglund, M., et al., Injuries affect team performance negatively in professional football: an 11-year follow-up of the UEFA Champions League injury study. British Journal of Sports Medicine, 2013. 47(12): p. 738-742.

3.         McClure, R.J., Intelligence in injury prevention: artificial and otherwise. Injury Prevention, 2020. 26(1): p. 1-1.

4.         Raj, R., et al., Machine learning-based dynamic mortality prediction after traumatic brain injury. Scientific Reports, 2019. 9(1).

5.         Starling, L., Teams with lower injury rates have greater success in the Currie Cup rugby union competition. South African Journal of Sports Medicine, 2019. 31(1): p. 1-2.

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