思い通りに身体を動かすためには、ヒトが動く仕組みを理解しておく必要があります。今回は、ドリブルでみられるヒトの神経活動に焦点を当てて考えてみます。
無意識に支配される反射活動
私たちの動きは気づいていないですが、大部分を無意識に行っています。
立ったり、歩いたりするときに考えごとをしながら動くことができます。これは、反射的に活動するシステムがヒトに備わっているからです。
反射的な運動がよくわかる例を示します。
例えば、歩いている時に硬い物を踏んだり、痛いものを踏んだりした時には、踏んだ側の脚は曲がり(屈曲)、反対側の脚は突っ張る(伸展)動きを無意識に行います。
下の図のように、物を踏んだ瞬間に左脚に重心が移動して、体重が掛かる左脚の筋肉が活動して突っ張って支えてくれます。これは神経の働きです。
体重を支え、姿勢を保持するために、ヒトは重心がかかる側の下肢を無意識に突っ張る仕組みになっています。これは、つまり重力に抗して働くための神経と筋肉のシステムが無意識に優勢に働くことを示しています。
ドリブルにどのように作用するか?
この反射活動がドリブルの際にどのように作用するのでしょうか?
一般的な選手の場合
一般的な選手はボールを左右に動かした場合に、ボール側に重心が動いた場合、動いた側の下肢が突っ張るようになります(下の図では右脚)。これは、右足が体重を支えるために下肢の伸展活動が起こるので自然な現象です。この伸展活動は、足が地面に接する前から活動するのが普通です。
トップ選手の場合
一般的な選手の場合には、重心が右側に移動すると右脚で体重を支えるので突っ張るための筋肉が着地前から働くために、足首は自由に動かすことができません。しかし、一流選手の場合は、体重支持の準備直前の段階でも足首を自由に動かすことができます。
着地の瞬間に右足首で左脚の前にボールを置き、コントロールしやすい状況を作ることができるのです。
これは、単純なことですが、神経の活動から考えると非常に高度な働きなのです。
反射運動と随意運動
ヒトの運動には反射的な活動と随意的な活動の2種類があります。
反射活動=無意識で行われる速い粗雑な運動: 中脳や脊髄が中心
随意運動=意識的に行われる遅く精細な運動: 大脳皮質が中心
ヒトはゆっくりとした運動であれば、正確な動きができます。しかし、速い動きになると使える神経が限られてくるため、複雑な動きや正確な動きが難しくなります。
一流選手は、速い動きの中でも正確で複雑な動きが可能です。一般的には速い動きになる程、力が入るため抗重力筋の活動が高くなり、動きがガチガチになります。
共同運動と分離運動
筋肉を動かすには、大脳皮質からの遅くて精細な動きのルートと中脳・脊髄からの速くて粗雑なルートがありますが、普通の人は両方のルートを状況に応じて使い分けています。
しかし、脳出血や脳梗塞などの大脳皮質に障害が起こった人は、共同運動という特殊な運動しか行えなくなります。
共同運動は、上肢や下肢が全体として動いてしまう状態で、例えば手首だけを曲げようとしても肘が曲がってしまったり、足首だけを動かそうとしても膝や股関節が動いてしまうことを指します。
このように、手首だけを動かしたり、足首だけを違う方向に動かすことは、高度な動物にしか備わっていない能力なのです。
そのため、体重を支えようとしながら足首だけ向きを変えてプレーをするのは、ヒトとして最上級のプレーだと言うことです。
いろいろな関節が一緒に動いてしまうことを共同運動と言いましたが、個々の関節を個別に動かすことを専門用語で分離運動と呼びます。
一流選手のプレーを見る時には分離運動に着目すると、凄さが理解できるでしょう。
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