教科書的に載っているトレーニングについて、本当にそのトレーニングが選手にとって必要なものか見極める必要があります。
トレーニングの真の目的を考える
例えば、選手の姿勢や動作について、トレーナーから見たら悪い姿勢であっても、指導者からみると競技特性にあった姿勢かもしれません。
スクワットを例に具対的に考えてみます。
下の2つのスクワット動作を比べてみてください。
一般的なトレーニング経験者であれば、ほぼ99%右側のスクワット姿勢でトレーニングをさせます。
ここで、視点を変えて考えてみます。
あるトレーニングを否定して、新しいトレーニングを導入する場合には必ず選手が納得する説明を行うことは勿論ですが、トレーニングを変えることによって失ってしまうかもしれないデメリットを必ず検討しておく必要があります。
悪いと思われているスクワット動作は・・
一般的に良くないと考えられているスクワットの特長は
・大腿四頭筋を中心に活動している
・膝に対して重心が後方に位置しているため、膝に負担がかかる
・後方重心になって、母指球に体重が乗らない
一方で、この動作には下記のメリットも存在します。
・大腿四頭筋を中心に使うので、制御する筋肉が少ない
・大腿四頭筋だけで膝の屈伸を制御できるので、使う関節が少ない
・体幹が垂直になりやすく、重心の移動が少ない
・重心の移動が少ないので、動作の時間が早くできる
選手が行う動作には必ず意味がある
選手がその動作を行う時には、逆の見方をしていく必要がありますが、
多くの場合、その姿勢や動作をとっている理由は
楽だからです (エネルギー効率が良い)
どういうことかと言うと、重心の移動が少なく、使っている筋肉が少なければ、神経の活動も最小限で筋活動も少なくて済むため、エネルギー効率が良く、安楽に行うことができます。
神経の活動からすると、意識していない狀態では大脳皮質の活動が少ないので、脳のエネルギー消費も少なくなります。逆に意識して歩いている時には、大脳皮質の部分を多く使うので、疲れます。
これは、歩行の研究を中心に明らかにされている内容で、ヒトは中脳や脊髄にCentral Pattern Generator (CPG)と呼ばれる無意識に運動パターンを生み出す機構が備わっており、単純な動作は意識せずに行えるように進化したものと考えられています。快適速度で一定のリズムで歩いている時は、運動が自動化されているのですが、滑りやすい床面や段差、不慣れな環境での歩行時には意識して歩行するために大脳の皮質部分の活動が高まることが知られています。
運動を無意識に行うとは(運動の自動化)
運動の自動化には段階があります。
運動は遅く、一貫性がなく、非効率的でかなりの認知活動が必要
運動はより流れるように行われ、再現性が高まり、効率的になり、認知活動が少なくなる。
運動は正確性が高く、一貫性があり、効率的で認知活動をほとんど必要としない
運動が自動的に行われるようになるためには、段階を得ていくと考えられています。
一般的:意識的に動きを作り、それを反復して、無意識にできるようになる
運動の自動化に関する神経メカニズム
基本的にヒトが筋肉を動かして動きを作り出す時には、大脳皮質という脳の神経細胞から指令を出して、脊髄を通って、筋肉を動かすことで行っています。
これを繰り返していくと、大脳皮質からの指令は減少して、皮質より下の領域(中脳・小脳・脊髄)に運動パターンが蓄積されて、効率的に動けるようになると考えられています。大脳皮質の活動や脊髄レベルでの過剰な活動は減ってきます。
大脳皮質は意識的な運動、皮質下は無意識の運動が中心となるため、運動の学習が進んで自動化するとこのような神経活動の変化がみられます。
意識して行うと本当に学習は進むのか?
意識的に行うことを繰り返すことで、運動の自動化が進むと考えられていますが、違った見方もできる研究があります。
筑波大学の落合陽一先生のグループの研究です。
この研究では、プログラミングによる電気刺激用いて、楽器を自分の意思とは関係なく演奏させた後に意識的に演奏することができるようになるか?といった内容です。
結果は・・・
無意識で強制的にできるようにすると、意識的にできるようになる
これまでは、意識的に繰り返すことが運動の自動化にとって有効と考えられていましたが、逆転の発想です。
実際に、スポーツ現場において、意識すればできるようなことでも、実際の試合において反射的にプレーができるかどうかは全く別物であることがよくあります。
メッシやイニエスタのプレーを真似しようとしても、練習ではできても試合ではなかなか使うことができません。
意識してできることが、無意識でできるとは限らない
無意識でできることは、意識的にできる可能性が高い
トレーニングの本質としては、
気づいた時には、できるようになっている状態を無意識に作ってあげることが最高の指導である
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