スポーツ障害にはいろいろな疾患がありますが、その中でも復帰の判断が難しい疾患のひとつが
肩関節の脱臼です。
脱臼は、いわゆる“肩が外れた”という状態で、骨の位置がずれて起こります。
一般人が想像するのは、肩が外れても元の位置に戻せばすぐにプレーできるだろうと考えがちです。
しかし、肩関節の脱臼後のプレー復帰については現在においても明確なコンセンサスが得られていません。
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脱臼の治療の根拠が得られない理由
肩関節は骨が前方にずれるので、前方脱臼が9割以上なのですが、前方脱臼後の保存療法(手術をしないで復帰する)については専門家の間でも未だに議論が続いています。
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脱臼の治療の難しいところは、一旦肩が外れても時間が立ち、痛みが引き、ある程度の力が発揮できるため復帰できてしまうことにあります。
実際に、アメリカの大学スポーツ(NCAA)のアスリートの調査では
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73%の選手がシーズン中に復帰できたと報告されています。しかしながら、
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実際に、復帰ができたとしても、再発せずに問題なくプレーができた人が3割、シーズン中再発しながらもプレーを継続できた人が3割、再発してプレーできなくなった人が3割といった結果が出ています。
つまり、肩関節脱臼後のプレー復帰が難しい理由は、
再発率の高さにあります。
特に肩の脱臼については、若年者の再発率が高いことがスポーツ医学の世界では有名な話となっています。
特に20代前半より前に脱臼の経験がある選手では、8割〜9割が再発を繰り返す反復性の肩関節脱臼に移行すると言われています。
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肩関節の脱臼は、再発するとほぼ反復性に移行すると言われており、
初回脱臼の時点での対応が重要であると考えられています。
現在までにわかっていること
では、実際に世界では脱臼に対してどのような対応をとって、スポーツ復帰を行っているのでしょうか。
まずは脱臼直後の対応です。
肩関節の固定の方法についても、装具を用いた内旋位固定にするか外旋位固定にするか、何も使わない状態にするかで議論がなされています。
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内旋位固定
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外旋位固定
外旋位固定に関する根拠が学会などで報告されてつつありますが、外旋固定については特別な装具が必要になってくる問題もあり、
現在のところ、根拠のある初期対応としては
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脱臼後のプレー復帰のプランは・・
脱臼後の復帰プランについても、様々な報告がありますが、論文で紹介されている復帰までの概要をお伝えします。
一般的なプランとしては2−3週間で復帰を目指す内容です。
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痛みがなく、可動域や筋力が戻り、競技の動きができれば装具やテーピングを用いて復帰する流れが一般的です。
肩の脱臼は保存も手術も悩ましい
肩関節脱臼後の復帰については、2−3週のプランで復帰を目指すのですが、お伝えしたように脱臼は再発率が異常に高い疾患のため、順調にプランをこなしたとしても、いつ再発するかはわかりません。
また、脱臼の中でも、損傷の程度がいろいろとあり、場合によってはすぐに手術を行う必要があります。
・関連損傷(骨折、腱板断裂、骨軟骨損傷など)
・リハビリが上手く行かない場合
・2回以上の再発
・コンタクトスポーツや投球動作を伴うスポーツ
・シーズン終了付近の損傷 など
肩関節の脱臼は、関節を包んでいる組織が緩くなってしまうため、再発が続くとスポーツを行うことが困難となります。
そのため、手術を行う必要があるのですが、肩の手術は非常に難しい手術の1つとして有名です。
実際に、緩みを止めるために関節を締める手術を行うのですが、締めすぎると可動域に影響が出ますし、緩すぎると再脱臼してしまうので、その匙加減が非常に難しいのです。
この辺りの手術については、別のところで解説していきたいと思います。
トレーナーが絶対にやらなくてはいけないこと
脱臼は再発がつきものです。シーズン中に早期に復帰させるのであれば、なおさら再発のリスクは高くなります。
重要な大会があるとなれば、脱臼後5日程度で復帰することも可能ではあります。
しかしながら・・
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Watson, S., B. Allen, and J.A. Grant, A Clinical Review of Return-to-Play Considerations After Anterior Shoulder Dislocation. Sports Health: A Multidisciplinary Approach, 2016. 8(4): p. 336-341.
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