スポーツに関わる理学療法士やトレーナーにとって重要なのは、選手の障害をいかにして予防するかです。
しかし、障害予防の研究はかなり限界があります。
今回は、障害予防の世界的な動向を探りながら、限界の正体に迫ります。
世界の傷害予防の取り組み
現在の障害予防の中でも、取り組まれているKeywordが3つあります。
① Core muscle = コアマッスル(体幹筋)
② Dynamic Balance = 動的バランス
③ Co-ordination = 協調性
この3つの言葉は、何となく一般的になっていますが、これらを測定するのは実は簡単ではありません。
この3つの能力は、前十字靭帯損傷(ACL)や足関節捻挫などのスポーツ傷害で特に重視される能力です。
例えば、前十字靭帯損傷を考える場合には、損傷が多いジャンプ動作などにおいて適切なアライメント(身体の配置)を意識して、体幹(重心)が安定していることが望ましいと考えられているため、こうした能力が求められます。
靭帯が切れる状態というのは、膝が内側に入り(Knee-in)、重心が後方に位置するために、下肢に異常な筋活動が要求されています。
体幹が不安定になり、重心が安定せず、股関節ー膝関節ー足関節の協調性が低下している状態が危険なポジションということになります。
関節の位置と重心の位置が安定しないことは、関節への負担を増大させることになり、体幹(core)の状態と、動的な安定性(Dynamic Balance)と協調性(Co-ordination)が重要というの世界的な流れです。
多様な傷害危険因子
様々な関節への負担というのは、重心と関節の位置関係に負担が変化します。
ACL損傷の傷害要因は様々ですが、最近は膝の筋力やアライメントだけでなく、体幹の状態も危険因子として論文(Review)に示されるようになっています。
その中でも、体幹の固有感覚(Core Proprioception)なるものが挙げられています。
これはどういったものでしょうか?
体幹の固有感覚とは?
体幹の固有感覚とは、体幹・骨盤の傾きを自分自身で感じ取る能力のことです。
これは、世界的に有名な雑誌に掲載された研究結果ですが、骨盤の傾きを1°単位で調整できる特殊な機械を用いて行われた研究で、機械によって座面が傾き、傾いた状態を申告することで体幹の感覚を調べています。
体幹(骨盤)の傾きを感じる能力が劣っていた選手のほうが靭帯の損傷率が高かったという内容です。
体幹の固有感覚は、このように特殊な機械を使用することでしか実際には評価することができません。
独創性・新規性のある研究結果というのは、常に新しい機器の開発や測定方法の開発によってもたらされます。
常にそうした結果が、世界のトレンドを形成しています。
体幹トレーニングが時代遅れな理由・・
フロントブリッジやサイドブリッジなどの体幹トレーニング自体は、それだけではすでに時代遅れな感は否めません。
フロントブリッジなどで測れるものは、体幹の硬さだけです。つまり、体幹を固める能力を向上させるトレーニングであり、体幹と下肢の協調性や動きの中で体幹を正中位に高める能力を鍛えるものではありません。
競技に必要な体幹の機能を把握した上で、体幹のトレーニングはプログラムされる必要があるのです。
例えば、ラグビーでのコンタクトで必要な体幹の強さと、体操選手の回転軸を安定させるための体幹の強さは同じではありません。
また、陸上選手で使う体幹の強さと水上での泳動作に必要な体幹の強さも同じではありません。
競技に必要な体幹の強さを見極めてアプローチすることが大切です。
体幹の機能の見方
体幹の動的な機能を診る方法の1つに、
クラインフォーゲルバッハの運動学というものがあります。
これは、ヒトの動きを評価する際に、バランスの取り方をみるもので
1.Counter Weight = 身体の重さを使う
2. Counter Activity=動きと反対側の筋肉の活動させる
3.Counter movement=動きと反対側の動きを作る
の3つの身体の使い方によってバランスを取るものです。
こうした個人のバランスの取り方、体幹の使い方について細かく研究されることはありません。
選手のパフォーマンスに大きく影響するものですが、これらを一般化することは非常に難しいのです。
研究の限界は、個々の動きのパターンを定量化できないことが大きな問題です。
個々に最適化されたプログラムを研究として行うことはできません。
研究は常に、全体の最適化が考慮されなければいけませんが、これからの時代は、対象者を幾つかのパターンに分類して研究される方向で予防プログラムが進んでいくと思われます。
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