障害予防だけでは意味がない
障害予防に関しては、失敗はあっても成功はありません。
基本的には怪我をしないことが普通の状態だからです。
例えば、前十字靭帯損傷の障害予防トレーニングを行って、万が一でも前十字靭帯が断裂したとしたら、その時点で予防トレーニングは失敗を意味します。
研究の難しいところは、同じ選手で障害予防トレーニングの効果を比較できないことです。
例えば、20歳の時に障害予防トレーニングを1年間継続していたとします。次の年はトレーニングを中止して1年間様子をみるとします。仮に、予防トレーニングをしていない時期に靭帯損傷が起こったとしても、20歳と21歳で年齢や時間という要素が違ってきます。そのため、予防トレーニングを辞めたから怪我をしたのか、年をとったから怪我をしたのかはその選手にとっては区別はできません。
障害予防トレーニングの効果は集団に対して実施して、全体として何人くらい負傷者を減らしたかで効果を判定します。しかしながら、怪我をした選手にとっては全てのトレーニングは意味がなかったものとして解釈されます。
実際に、障害予防トレーニングを行っていても障害は必ず発生します。
その理由の一つがスクリーニングテストが完全に機能しないことです。
例えば、前十字靭帯損傷を予測するために、膝がどの程度外反したかを測定して、外反が強い選手ほど障害が発生しやすいと考えられています。しかしながら、実際には膝の外反の程度が少ない選手の中でも一定数靭帯損傷を起こした選手がいるということです。
外反が強い選手の方が靭帯を損傷する確率は高くなりますが、あくまでの集団の中での割合であって、選手にとっては怪我をするかしないかは常に50%-50%の状態ということです。
障害を予測するために開発された様々なスクリーニングテストは、完璧ではありません。
理学療法士やトレーナー関係の指導者がよく使うFunctional Movement Screen(14点以下/21点中)も十分な機能を果たすことは出来ていません。
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6135213/)
(https://bmjopensem.bmj.com/content/5/1/e000501)。
障害予防のためだけに、エビデンスのあるトレーニングを使うのは、選手に確実に適応できるとは限りません。
トレーニング負荷はパフォーマンスと障害発生の両方を継続して評価できる
トレーニングの量と障害の発生率は関係してきますが、トレーニングの量を定量化することは、パフォーマンスが上がった要因を分析できますし、障害が発生した要因も分析することができます。
有酸素能力は良い指標になる
トレーニング負荷を定量化することによって、障害を予測できるのですが、もう一つ有酸素能力≒最大酸素摂取量(VO2)はパフォーマンスの向上と障害予測の良い指標になります。
有酸素能力が上がることによって、持久系のパフォーマンスは上がりますし、フィットネスが上がることで障害の発生を抑えることが可能と考えられます。
柔軟性や筋力は高くても、低くても障害リスクになりますが、最大酸素摂取量(VO2)だけは高すぎて困ることはありません。最大酸素摂取量を増やすためには、オフシーズンの低強度トレーニングは不可避です。
参照
Poplin, et al Am. j. epidemiol 2013
Eliakim et al Sports Medicine International Open 2017
Palmer et al Sci J Pulm Respir Med. 2017
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