スポーツ障害の本質に迫る

目の前の問題に一喜一憂してはいけない

注意を引く問題は、実際は症状の一つにすぎないと考えなければならない。そして本当の問題を探さなければならない。単に症状だけの手当で満足してはならない。

経営者の条件 ピーター・ドラッカー

“The last straw breaks the camel’s back.”という言葉あります。

直訳すると「最後の藁1本がラクダの背骨を折る」という意味で、「我慢の限界」を説明する際に使われる英語表現です。

ラクダにはすでに荷物が積めるだけ積まれており、その状況でかろうじて立っている状態だとします。

そして、その状態が藁1本ほどの些細なものをきっかけに崩壊してしまうことを表しています。

これから派生した「ラストストロー現象」は、出来事のきっかけとは異なった真因が別にある場合のメカニズムがあります。

目の前で起こったことだけに目がいき、藁1本がラクダを倒してしまったと勘違いをしてしまうこと。

真因がわかりにくくなりやすいことへの警鐘を促す概念です。

スポーツ障害を考える時に、物事の本質がどこにあるのかを常に考える必要があります。

今回は、俯瞰したものの見方をスポーツ障害を例にして考えます。

長期的視点で物事を捉える

子どものスポーツ障害を考える場合にも、ラストストロー現象と同じことが言えます。

例えば、怪我の原因についてどこに焦点を置くかというと、

柔軟性や筋力、姿勢の悪さ(アライメント不良)、当日の体調の悪さなどです。

今、現状の状態を中心に怪我の原因を考えてしまいがちです。

この問題について本質的に考えると視点が広がります。

対象を広げることと原因の根本を探る

今、子どもたちに起こっていることを俯瞰して考えます。実は、学校現場において、体育・スポーツ関連の事故は増加の傾向にあります。

スポーツでの怪我だけでなく、転んで骨折したり、跳び箱や組体操で失敗して骨折なども珍しいことではありません。

子どもの怪我が全般的に増えているという事実があります。

ここで大切なのが、例えば部活動で指導をしている状態で、怪我人が増加したとします。すると、その部活動に関する子ども達に問題であると考えがちです

しかし、実際にはスポーツの有無に関わらず子ども全般に生じている問題が根本にはあるということです。

スポーツ障害の根本的な原因は・・?

怪我が全般的に増えている問題は、子どもの基本的な運動能力が低下していることが一因です。

基本的運動能力とは、走る、投げる、跳ぶといった運動の根本的なベースとなる能力です。

基本となる運動能力が不足している子供が増加しているので、組体操など集団で同一の負荷をかける授業やトレーニングは年々リスクが高くなっています。

怪我のリスクが増えると、学校側は責任回避のために、運動の負荷を下げざるを得ません。その結果、運動能力の低下に拍車がかかるという悪循環を招きます。

では、この基本的な運動能力がなぜ低下しているのかを考えると、一番考えられるのが、そもそもの運動機会の減少です。

これは、身体活動量の低下とも呼ばれますが、身体活動量の低下が根本的な問題であることが世界的に注目されています

全体的なスポーツ障害を予防するためには、子どもの基本的な運動能力を上げる必要があり、運動能力を上げるためには、小さい頃(2−3歳頃)からの運動機会を増やすことが重要であるという結果に落ち着きます。

そのための政策が必要になるというのが、社会保障を含めた大規模な予防戦略ということになります。

例えば、基本的な運動能力が低ければ、そのまま高齢者になった際に医療費がどの程度かかり、介護予防と比較して、どれだけ低コストで実施できるかを示すことができれば、国策としての対応も可能となります。

地域でのローカルな活動から、長期的視点と世界的視点で物事を考えるというのは、こういった過程です。

目の前の問題を解決するだけではなく、長期的に俯瞰的に考えることでみえてくる世界もあります。

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