足の捻挫が起こる理由は・・
足関節の捻挫(靭帯損傷)はスポーツ傷害の中でも、発症頻度が高い疾患の一つです。
ジャンプの着地や方向転換の際に、足首を捻りますが、捻る方向の90%が内側(内反)です。
では、なぜヒトは内側に足を捻るのでしょうか?
進化論的に考察していきます。
木登りに適した構造の名残である
結論から言うと、昔は足首が内側に捻っている方がメリットがあったからと考えることができます。
木登りをする際には、足を内側に捻って、足の裏を木の方向に押さえつけることによって両足で挟みながら木を登ることができます。
足関節の構造をヒトとチンパンジーで比較していみると、確かにチンパンジーの方が足が内側に向きやすい構造になっているのですが、ヒトにおいても骨の構造は内側を向きやすくできているのです。
ヒトの足は内側の動く範囲は広いのですが、足を外側に向けようとすると骨同士が接触してしまうので、動きが小さくなってしますのです。
また、構造だけでなく、内側への動き(内返し)と外側への動き(外返し)の筋力を比較してみても、内側への筋力のほうが強いことがわかっています。
木登りを捨てて、走ることを選択した
実際にヒトの祖先は木の上からの生活を止めて、地上に降り立ち、移動して獲物を獲得することを選択しました。
木に登るためには、足関節の背屈という動きが必要です。
足関節が背屈するほど、足部と膝の距離が近くなり、身体を木の方に寄せることができ、上に登る力を生み出しやすくなります。
しかし、実際にはヒトは地面に降り立ち、歩く・走ることを選択しました。
走る動作を増やし、しっかりと足の裏で地面を蹴り出そうとすると足関節の底屈という動きが重要になります。
底屈と背屈や相反する動きであり、走るようになったヒトは足関節の底屈を重視するようになります。
構造的に不安定な底屈位
足関節の構造上、背屈と底屈の関節の状態を比較すると、底屈の状態の方が不安定になります。
その理由は、足関節の要である距骨という骨は、前方が広く、後方が狭い形状になっています。
そのため、足関節が背屈すると前方の広い部分が関節内に収まるために、骨同士の隙間が狭くなり、動きが少なくなり安定します。一方で、足関節が底屈すると幅の狭い骨が関節に収まるために、関節に隙間ができ、不安定な構造になるのです。
走ることを選んだヒトは、蹴り出すための底屈の動きを優先しましたが、一方で不安定性を招く結果となったことで、捻挫をしやすい状態になったとも言えます。
ヒトの構造においては、進化の名残を観察できる部分がたくさんあります。
構造的に見ると、ヒトにおいては得意な動作と苦手な動作が明らかになります。
多面的な視点で、物事を捉えることができれば視野は自ずと広がってくるのです。
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