ダルビッシュ選手と田中選手の靭帯損傷問題
投球動作は全身運動ですが、全身運動の中でも縦回転と横回転があることはお伝えしました。
投球動作と障害は密接な関係がありますが、今回は肘の障害について考えていきます。
投球動作における縦回転と横回転の機能は、相互補完的な役割を果たしています。
縦回転動作:肘関節の伸展を中心とした投げ方
横回転動作:肩関節の内旋を中心とした投げ方
投球における上肢の動かし方は、肩関節の内旋と肘関節の伸展が中心です。
投球障害においては、この二つの力の関係が大きく影響します。
肘関節の靭帯損傷(横回転)
肘関節の投球障害について説明していきます。
投球障害の中でも、近年最も有名なのが “トミー・ジョン手術”でお馴染みの
肘関節の内側側副靭帯損傷(断裂)です。
靭帯が切れるメカニズムは
肩関節を最大外旋位になった状態で、肩関節に内旋方向の力が生じた際に肘関節の靭帯に強いストレスが生じます。
上腕が内側に捻られ(肩関節の内旋)、前腕が遅れると靭帯にストレスがかかります。
つまり、横回転が優勢で強い肩関節の内旋トルクを発揮するタイプでは、靭帯損傷の危険性が高くなります。
前腕が肩関節の外旋方向に遅れた状態で、内旋方向に力が入るほど、靭帯へのストレスが大きくなります。
体幹を中心に横回転が強くなるほど、上肢が遅れることも多くなります。
肘関節の骨障害(縦回転)
一方で、靭帯損傷の他にみられるのが、肘の骨の変形(骨棘)や疲労骨折、関節鼠などと呼ばれる肘の骨の問題です。
これは、肘関節を伸ばした際に、骨と骨が衝突することによって生じます。骨が衝突することで骨が変形し、骨棘が形成されたり、肘頭の疲労骨折が起こります。また、繰り返されるストレスで滑膜と呼ばれる部分から炎症が起こることもよくあります。
肘の靭帯損傷と肘の骨問題との関係
肘の靭帯は横回転の動きで損傷されやすいですが、靭帯に負担がかかると無意識に痛みを避けようとして、もう一つの動きである縦回転の動きに移行することが考えられます。
ダルビッシュ、右肘痛は骨ストレス反応と上腕三頭筋肉離れと公表
2018.8.23 デイリースポーツ
マー君が右肘の骨棘除去手術 定期検査受けての処置
2019.10.25 日刊スポーツ
田中は1年目の14年に右肘靱帯(じんたい)に損傷が見つかっており、15年には今回と同様の手術を受けている。
同上
野茂英雄投手、右肘遊離軟骨除去手術が成功 回復まで4ヶ月
1997.10.8 朝日新聞
ダルビッシュ選手も田中選手も肘関節の靭帯を損傷しています。
ダルビッシュ選手は肘の靭帯損傷が明らかになる前に、上腕三頭筋の張りを訴えています。
上腕三頭筋は肘関節の伸展に使う主要な筋肉です。
この現象からわかることは、
肘関節の靭帯損傷は肩関節の内旋の負担によって生じやすくなります。
そのため、靭帯が損傷したり、痛みが生じる場合には肩関節の内旋が行えず、肘関節の伸展を優位にすることによって投球動作を行うようになります。
その結果、上腕三頭筋が張ったり、肘の骨棘や疲労骨折が生じやすくなるというメカニズムです。
縦回転:肘関節の伸展 → 肘関節の骨障害(骨棘、疲労骨折)
横回転:肩関節の内旋 → 肘関節の内側側副靭帯損傷
肘の靭帯損傷を予防するためには、縦回転を意識すると良いのですが、縦回転を強調すると肘の骨障害が生じます。このバランスを考えながら投球動作は分析する必要があるのです。
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