障害予防の矛盾(膝靭帯損傷と足関節捻挫)

前回、膝関節の前十字靭帯損傷に関するカッティング技術について説明しました。今回は、つま先の位置の変化によって何が起こるかを考えます。

Toe-out VS Toe-in

障害予防におけるジャンプやカッティング動作において、つま先を外側に向けた状態での足の接地は基本的に推奨されていません。

その理由としては

膝関節の前十字靭帯損傷の受傷姿勢が Toe-out. Knee-in だからです。

Toe-out   Knee-in   = つま先を外側に向けて、膝が内側に入る状態

左側はニュートラルな姿勢、右側がToe-out Knee-inの状態

どの足部接地が理想的か?

つま先を内側に入れたり、外側に向けたりして、足部は接地するのですが、一般的な理学療法士やトレーナーは、Toe-outしないように教育するように指導されています。

しかし、バイオメカニクスの観点から動作を客観的にみていく必要があります。

つま先接地位置の違いによる床反力の変化

Toe-in. = 床反力の前後成分が大きい → 前後の動きに有利

Toe-out = 床反力の左右成分が大きい → 左右の動きに有利

つま先を外側に向けることによって、足部の左右方向の面積が広がります。

姿勢制御の観点から考えると、左右方向のブレが大きい場合には、足部を外側に向けることで支持基底面を広げて、姿勢の安定を作りやすいというメリットがあります。

逆に考えると、つま先が外側を向きやすい選手は、重心の左右方向の動揺が大きいことが考えられます。

つま先が正面を向いている状態では、前後方向に強い力を発揮できる反面、左右方向の支持面が狭いために、側方への動揺に弱い特徴があります。また、股関節と足部の位置関係が垂直に近いほど、股関節モーメントは小さくなるので、足関節の側方への負担が大きくなります。

一方で、つま先が外を向くと下腿の骨と大腿部の骨に捻れの力が加わるので、前十字靭帯や半月板などの膝関節に負担がかかりやすくなります。

関節への負担

Toe – in. =. 足関節の側方への負担が大きい

Toe – out = 膝関節の捻れへの負担が大きい

カッティングはつま先接地が良い?

また、昨日の記事ではカッティング動作の際には、つま先接地の方が膝への負担が小さいことが示されていました。

こちらの論文でも同様の結果が出ています。

Ogasawara I,et al.Rearfoot strikes more frequently apply combined knee valgus and tibial internal rotation moments than forefoot strikes in females during the early phase of cutting maneuvers. Gait & Posture 76, 364-371,2020

これは、つま先から接地することによって、下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)が使いやすくなるため、足部への衝撃吸収の役目を果たしてくれることが膝への負担を減らしてくれる要因と考えられます。

しかしながら、つま先接地(足関節底屈位)の状態では

足関節捻挫のリスクが高くなります

足関節の構造特性

つま先着地(足関節底屈位)= 関節の隙間が広く、構造的に不安定

踵着地(足関節背屈位)= 関節の隙間が狭く、構造的に安定

踵から着地した方が、足関節の構造的には安定しているのですが、踵の骨が床に対して強い衝撃を与えるため、膝関節には大きな負担が生じます。

残念ながら、足関節捻挫と膝関節の靭帯損傷はトレードオフの関係になっています。

実際に、膝の前十字靭帯損傷の患者には足関節捻挫の既往者が多いという報告もあります。

Kramer LC, Denegar CR, Buckley WE, Hertel J. Factors associated with anterior cruciate ligament injury: history in female athletes.J Sports Med Phys Fitness. 47(4):446-54.2007

メカニズムとしては、

足関節捻挫発症 → 捻挫を防ごうとToe-outでの動作 → 膝関節靭帯損傷

もちろん逆のパターンも考えられます

膝の靭帯損傷 → 損傷を防ごうとToe-in での動作 → 足関節捻挫受傷

結論としては、短絡的にこの動きにはこの姿勢・動作というパターンに固執することなく、目的や状況に応じて、適切な動作が取れるようにトレーニングしていく必要があります。

パターン化されたトレーニングではなく、状況に応じた動作を作れるように配慮しよう‼️

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