障害予防の矛盾(cutting technique編)

本当にそれは正しいのか・・

物事をみるときに、局所的にみるのか大局的にみるのかで、指導者がどのように考えているのかを垣間見ることができます。

障害予防において、選手の動きを局所的にみても問題は解決しないと思っています。

具体例として・・

今回はカッティングのテクニックに関する論文から考えます。

カッティングとは
 直進で走行した状態から急激に方向転換をするときの動作

Kristianslund E et al. Sidestep cutting technique and knee abduction loading: implications for ACL prevention exercises. Br J Sports Med. 48(9):779-83.2014

背景: 

前十字靭帯(ACL)の損傷を防ぐプログラムでは、サイドステップのカッティング技術が不可欠です。テクニックが潜在的に障害発生に関わる関節負荷にどのように影響するかを理解することは、予防プログラムを改善するかもしれません。この研究の目的は、最大膝関節外転モーメントに対するサイドステップのカッティング技術の効果を測定することでした。

方法: 

123人の女性ハンドボール選手(平均±SD、22.5±7.0歳、171±7 cm、67±7 kg)のサイドステップカッティングを実行して、全身の運動学および膝関節運動学を計算しました。カッティングを相に分けの3つの動きを分析しました。接触相の最初の100 msの間、選択されたテクニック要素と最大膝外転モーメントの間の関連を調べました。外転モーメントが地面反力(GRF)または膝外転モーメントアームの大きさからどの程度影響したかを調査しました。

結果: 

テクニックによって、膝の外転モーメントの分散の62%を説明可能でした。カット幅、膝の外反、つま先の着地、アプローチ速度、カット角度が最も重要な予測因子でした。

膝の外転モーメントが大きい =  膝の靭帯損傷のリスクが高い

考察: 

狭い幅でのカッティングやつま先着地での動作を行うと、サイドステップカット中の膝の外転モーメント(外反ストレス)が低くなります。これらの要因は、ACL損傷防止プログラムの対象となる場合があります。

アプローチの速度を低下させるとドリブルなどのプレー速度が落ちることなので、これは予防とパフォーマンスが両立しません。カット角度についても、行きたい方向によって角度は変化するので、コントロールには限界があります。

自らでコントロールできるのは、カット幅、膝外反角度、つま先着地ということになります。

超簡単にポイントを整理すると
           幅の狭いカッティングでACLを予防できる可能性

 

左側が良好(カット幅が狭い) 右側が不良(カット幅が広い)

客観的にみるということ

今回の論文においては、上の図において、左側の図のようにカッティング動作をするように指導することが望ましいという結論に至ります。

しかしながら、視点を変えることによって障害予防の矛盾が生じます。

矛盾① 他の関節への影響は❓❓

カット幅を広げて、股関節を外転させた状態では、確かに膝関節に外反方向のストレスが大きくなります。

しかしながら、接地の幅を狭くして、足部を中心よりに置くと別の問題が生じます。

それは、足関節への内反方向への負担が増大するということです。

足部を重心の近くに接地させることによって、接地した足部よりも重心が側方に外れやすくなるために股関節の外転モーメントが発揮しにくく、足関節への負担が増大します。

つまり・・

足関節捻挫のリスクは増える

足部が側方に接地すれば足関節の外反方向への力は小さくて済みます。

膝だけの問題として動きを捉えては、別の障害のリスクを見誤ります。

矛盾② 力の入れやすさは❓❓

そもそも、足部が側方に接地しやすいのは何かメリットがあるからと考える方が合理的です。

その人がその行動をとっているからには、必ずメリットがあります。

ヒトが無意識に行動する理由の多くは、エネルギー消費を少なくすることが目的です。

これは、カッティング動作にも言えます。

足部を側方に接地させると、重心と足部の位置関係から内側に向かってベクトルが生じます。

→つまり、股関節の筋肉を多く使わなくても重心にかかる重力の力を使うことで側方に移動するための力を生み出すことが可能です。

一方で、足部の位置を中心に寄せてしまうと、重心と足部の距離が近いため、身体重心を利用した重力でのモーメントを有効に使うことができません。そのため、股関節の外転筋力(中臀筋・大臀筋)や足関節の外反筋力(腓骨筋)を瞬間的に発揮しなければ方向転換することができません。

もちろん、トレーニングによって下肢の筋力や瞬発力が向上すれば、動作は可能となりますが、かなりの筋活動が必要なのは言うまでもありません。

指導する際には、動作のメリットとデメリットを考慮して、決断しなければいけません。

研究で出てきた結果を自分のアタマで考えることが必要です

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