知っておきたい次の時代の障害予防

前回お話した障害予防の話については、理解できる人と理解できない人に分かれる話です。

残念ながら、多くの人はこの流れに乗っかっていません。

今回は、最先端の障害予防を理解するための簡単な前提知識の整理から、次の時代の障害予防を説明していきます。

何をみればケガを予測できるのか・・

“ケガ=身体が硬い” といった関係は、ケガに対して1つの要因だけを捉えようとしています。

しかし、実際の問題としては身体が硬いという要因だけでなく、疲労などもよく知られるケガの要因です。

例えば、柔軟性と疲労という2つの要因があった時に、それぞれがケガに影響を与えている可能性がありますが、もしも身体の硬さと疲労度にも関連があった場合には、どちらかだけを測定することによって、ケガを予測できる可能性があります。

そのため、要因が多くなった時にどの項目を評価すれば最も効率よく障害を判断できるのかが重要な点になります。

隠れた要因を探す

実際、ケガには多くの要因が関連していますが、それぞれの項目がケガに対してどの程度関連があるかということの他に考えておかなけばいけないことがあります。

例えば、要因が3つ(身体の硬さ、疲労度、指導のタイプ)があったとして、指導のタイプによって疲労度が変わってくるとします。

指導のタイプが違うから疲労度が違ってくるというのは、直感的には理解しにくい部分があります。

仮に、練習メニューが全く同じで、指導のタイプが異なっていた場合、指導者のタイプによって同じ練習メニューでも選手の受け取り方が違ってくることが考えられます。

すると、指導のタイプと疲労度の間にもう一つの関連性(モチベーション)が影響していることが考えられるのです。

要因が多くなればなるほど、要因同士の関係性や隠れた関係性がみてきます。

しかし、要因が多くなると、ヒトの力だけでは、関連性を発見したり、影響を与えている本当の要因を見つけることが困難になるのです。

こうした、関連性や隠れた要因を探るために使うのがテクノロジー(統計や数学的な知識を含む)というわけです。

成功者の話には、偏り(バイアス)がある

成功者の話を参考にする場合には、常に偏り(バイアス)があることを考慮しなければなりません。

例えば、選手を鼓舞するために威圧的な指導を好むタイプの指導者がいたとします。その指導スタイルで、選手が成功を収めた場合には、威圧的な指導が効果的であったと短絡的に解釈してします傾向があります。

しかしながら、指導には必ず受け取る側の選手が存在するので、威圧型の指導によって選手がその指導の中から有益な何かを見出すことによって、成功につながっていることを理解しておく必要があります。

威圧型の中に、選手が意義を見いだせない場合は、単なるパワハラです。

全ての成功は、あらゆる面からみていかないと本当の成功の本質には辿り着けないのです。

人は人に影響を受けるようにできているので、本質を見誤ることが多々あります。

本質を見極めるためには、どうしてもデータが必要になってくるのです。

なぜ、データが上手く扱われないのか?

要因が多くなればなるほど、関係性を見出すためには、あらゆるケースについて考えることが多くなってきます。

そうすると、ヒトの脳には多大な負荷がかかるために思考が停止してしまいます。

一方で、“身体が硬い=ケガをする” というシンプルな言葉は脳への負荷が少ないために、受け入れやすくなります。

そのため、ヒトは簡単でわかりやすい説を好むために、そうした流れが一般化して広く普及してしまうのです。

ニュータイプの時代

新時代に活躍する人材を “ニュータイプ” として定義したのは、山口周さんですが、スポーツ分野においてもニュータイプの人材というのは必要です。

経験に頼るのではなく、学習能力に頼り、決まった正解を探すのではなく、本質的な問題を探る人材が必要です。

身体の硬さや疲労度などの限られた情報のみで、障害を予測するのではなく、多面的な評価を行うことで、より精度の高い効果的なデータを集めて、分析していくことが必要です。

データで客観的にできると、汎用化できる

あらゆる情報がデータ化されて、客観的に示すことができるようになると、今まで経験や勘に頼っていたものが、言語化されるようになります。

つまり、『この天気で、この環境で、この対戦相手のケースであれば、この選手をこのタイミングで使うのが一番効果的である。』といったことが可能になります。

もし、失敗しても、失敗したデータが蓄積されていくので、より精度の高い情報が積み重なっていきます。

コンピューターによる機械学習やディープラーニングと呼ばれるものは、学習が基本です。失敗のデータを自律的に重ねることで、ヒトの何倍〜何十倍ものスピードで学習することができます。

こうしたデータが積み重なると、どういった選手にどのトレーニングをすると障害予防に対して、最大の効果が得られるのかが客観的に示すことができます。

日々の練習の中で、データを集めたり、分析することはハードルが高いように感じますが、スマートフォンが普及し、Apple watchなどの常に身につけて膨大なデータを蓄積できる機器が広まっている時代には、こうしたデバイスを活用できる学習する組織が強くなっていきます。

未だに、現場主義が根強く、自分の見たことや自分の経験に依存している人が多い時代ですが、常に新しい時代を開いていくのは挑戦している人間です。

必要とされる知識は、ITリテラシーや論理的思考、統計や数学的な知識など、日々時代によって変化していきますが、最後に生き残るのは常に変化に対応できるものです。

テクノロジーに使われる側ではなく、使う側に回っていくことが、効果的な障害予防にもつながっていくことでしょう!

2 COMMENTS

加藤貴大

ご多忙の中、失礼致します。整形外科クリニックに勤務しております理学療法士の加藤と申します。
小中学生の運動器障害を有する子を見ていると、怪我がしやすい子の前提として機能を細かくみるのも大切ですが、基本的な運動能力の低下(運動発達の未熟さ)が影響しているのではないかと感じています。
そこで、当院で小学生を中心に運動教室を開催して多様な課題を与えつつ、運動能力を高めていくことで後々の障害予防に繋げていきたいと考えています。先生の文献やブログを拝見させて頂くと、幼少期からの介入も大事なのではないかと考えています。先生の考えられている幼少期は何歳から何歳までのことを指しているのでしょうか?運動教室を開催するにあたってご参考にさせて頂ければ幸いです。宜しくお願い致します。

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movement designer

加藤先生
ご質問ありがとうございます。研究や文献は色々とあるのですが、基本的運動能力は10歳頃までにはベースが作られるという考えがあり、個人的には幼稚園(5歳頃〜)から介入ができると良いか思います。年代としては幼少期では英語でChildにあたり6歳〜12歳の年齢になり、青少年期(Adolescent)が13歳〜18歳までで研究が行われています。そのため、私が考える幼少期は6〜12歳で考えていただければと思います。

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