スポーツやビジネスの世界でよく使われる“1万時間の法則”というものをご存知でしょうか?
これは、“何か一つの物事(専門性)を極めるためには1万時間が必要である” というシンプルな法則です。
Ericsson, K. A., Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review(100), 363-406.
Many characteristics once believed to reflect innate talent are actually the result of intense practice extended for a minimum of 10 yrs.
超訳:才能ではなく、最低10年の厳しい練習の成果である
Ericsson 1993
この言説に対して、科学的な視点で論争を巻き起こしているサイトが下記にあります。
このサイトが非常に科学的視点で捉えているので、簡略化して解説します。
10000時間の法則が広まった理由
心理学者Anders Ericsson教授が10,000時間のコンセプトの父であり、バイオリニストを対象とした研究で、プロフェッショナルレベルに到達したものは平均して10000時間を費やしていたという研究です。
→ 10000時間を費やせばプロレベルになれる‼️という解釈
実際にこの結果をここまで有名にしたのは、この本だと言われています。
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1万時間の法則が広まった大きな要因は、研究が素晴らしかったことよりも、研究内容に興味を持ったライターがインパクトのある形で世の中に伝えたこと
どんなに優れた研究でも、陽の目をみない研究は世の中に沢山あります。
実は、エリクソンの研究以降でも同様の研究がいろいろと行われているのですがほとんど知られていません。
エリクソン以外の研究も含めて10000時間の法則を考えてみます必要。
10000時間の問題ではない⁉️
10000時間の最大の功績は、練習を本気で頑張れば誰にでも成功するチャンスがあると希望を持たせてくれる点にあります。
この説は、非常に分かりやすく、使いやすい。
しかしながら、この説を別の角度からみることができます。
チェスのプレイヤーを調査した研究です。
バイオリニストと同じようにマスターレベル(上級者)に到達するまでには約11000時間必要です。しかしながら、これはあくまでも平均値なので、最短で3000時間で到達するものもいれば、23000時間必要な人もいます。加えて25000時間を費やしてもマスターレベルに到達しない人もいるのです。
練習時間だけでは説明できるわけがない
エリクソンの研究は主に練習時間についてしか調査していません。
音楽家であれ、スポーツ選手であれ、練習は必要条件ではありますが、十分条件ではありません。実際には、下記の研究のように10000時間を要することなく、トップレベルに達している選手の報告は沢山あります。
コーチや家族の影響、トレーニング内容、トレーニング経験、日常生活の様子や個人の性格など、成功に影響を与える要因は数多くあります。
成功には、練習時間以外の要素も関与しているわけですが、ヒトは非常にわかりやすい説を好みます。
その言説の背景や裏側を知ることは、選手・指導者が考える第一歩だと思います。
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