指導者が意識して考えていない限り、自分で考える選手は育ちません。
最高の教育とは・・
最高の教育とは、自分自身でいかに考えるかを学ぶことである
マイケル・サンデル教授(ハーバード大学)
残念ながらスポーツ界においては、考えるという作業が疎かになっている場面がよくみられます。
幾つか例を挙げて、考えてみたいと思います。
怪我の原因は・・
ケガの原因についての、浅い思考の例を紹介します。
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多くの指導者にゲガの原因として、何があるかを尋ねると・・
身体が硬い
という意見をよく聞きます。実際にアンケート結果も同様の結果が得られています。
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身体が硬い → ストレッチをする という非常に浅い思考を繰り返します。
こうした考え方を改めていかない限り、障害予防を成し遂げることはできません。
どうやって考えるのか?
考えるという作業には、まず自分が考えている前提を疑う必要があります。
また、前提を疑うことに加えて、知識・情報が必要になります。
今回は、スポーツ貧血を例に考えてみます。
貧血は、昔からよく知られているものの一つですが、科学の進歩によって考え方が変わりつつあります。
貧血→ 鉄が足りない→ 鉄剤の処方(レバー・ほうれん草摂取)
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この辺りの考えは、私が小学校ぐらいから変わっていないので30年ほど前から通説として定着してしまっています。
ここで、どうやって考えるのかというと、
まずは通説が正しいのか疑います。
・鉄剤の処方が本当に正しいのか?
・鉄の不足が本当に貧血の原因か?
2つの疑い方が出てきて、ここからがスタートです。
新しい常識はなかなか定着しない
貧血を客観的に考えるためには、医学的な知識や栄養の知識が必要になってきます。
多くの人は、新しいことを覚えるのは負担が大きい(面倒臭い)ために学ぶことを放棄します。
そのため、新しい常識が証明されたとしてもなかなか定着していかないのが実際のところです。
貧血について、科学的に明らかにされている仮説を説明します。立命館大学の後藤一成先生の講演録をまとめたものです。
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貧血の原因として、鉄の不足が考えられていますが、実は全体のエネルギー不足の方が問題であると考えられています。
一般的に行われていた鉄剤の処方は、実は鉄の吸収を抑制するホルモンを分泌してしまうため、鉄が吸収されにくいことがわかってきています。
また、貧血は練習量が多い競技に増加する症状ですが、練習量が増えると食欲亢進ホルモン(グレリン)が減少するので、食欲が低下して、食事料が減少します。それが、エネルギー摂取量を減らしていると考えられます。
本当の原因はどこにあるのか?
全体的なエネルギー不足は、ヘプシジンと呼ばれる鉄の吸収を抑制するホルモンの分泌を促すので、ますます鉄が不足してしまう悪循環になってきます。
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鉄剤の処方 + エネルギー摂取の不足 → 鉄の吸収を抑制
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身体に酸素を運ぶヘモグロビンは、鉄の含まれたヘムというものとタンパク質であるグロビンが合わさったものです。
ヘモグロビンの合成には、鉄とタンパク質が必要です。
栄養をどこまで学ぶか?
貧血を治すには、ヘモグロビンの濃度を上げる必要がありますが、鉄とタンパク質が必要になってきます。
エネルギーを作るためには、3大栄養素の炭水化物(ブドウ糖)、タンパク質(アミノ酸)、脂質(脂肪酸)を分解して、身体の中で生み出す必要があります。
3つの中で、最も使いやすいのが炭水化物です。炭水化物は、ブドウ糖に分解され、筋肉に簡単に栄養を届けることができます。
炭水化物が不足すると、タンパク質や脂質からエネルギーを作ろうとします。
激しい練習で、炭水化物が不足すると筋肉内や肝臓からタンパク質が分解され、アミノ酸がエネルギーとして利用されて不足していきます。
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そのため、炭水化物の不足によるエネルギー摂取不足は、タンパク質の利用を増加させることで、ヘモグロビンに必要な栄養を横取りしてしまっている可能性が考えられます。
鉄分の不足だと考えているだけでは、問題は解決しません。
運動消費に見合った炭水化物を摂取することで、貧血の発生を防げる可能性が示されているのです。
本当の原因を考える
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要点をまとめると
- 鉄剤の摂取は、鉄の吸収を抑えてしまう可能性がある
- 全体の摂取エネルギー不足(特に炭水化物)が要因となっている可能性がある。
- 優先すべきは、鉄剤よりも炭水化物の摂取である。
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