トレーナーや理学療法をしていると、知識や技術を研鑽するためにセミナーに通う人は多いのですが、セミナーに通っていてよく起こる問題が
“あの手技は、宗教っぽいよね” というセリフです。
技術系のセミナーで、集客が見込める講師はカリスマ的な位置付けを構築しており、高額なセミナー料で活躍することができます。
日本ほど、あらゆる人が技術系のセミナーを開催している国も珍しい状況ですが、これは一つに国民性、宗教や哲学に根付いているのではないかと考えています。
これはあくまで私の仮説ですが、
西洋哲学と東洋哲学の根本的な違い
哲学という学問は非常に歴史が深いのですが、欧州を中心とした西側の思想とインドや中国、日本の東側の思想では根本的な考え方が違います。
西洋哲学とは・・
西洋哲学の起源は、ギリシャ哲学のソクラテスあたりから始まりますが、前提として
自分たちは何も知らない(無知)
という前提から始まります。
根源的な問いがあり(例えば、絶対に正しいものは存在するか?、今生きている世界とは何か?などちょっと面倒なもの)、その問いを色々な人が自説を出して、その説を批判的に吟味しながら、ブラッシュアップして説を重ねていっています。
その一旦として、アリストレテストという人が科学を持ち出して、客観的なものや説明可能な物を加えるような原理ができています。
つまり、西洋哲学では完全な答えが出ない状態で、答えに近づくようにいろいろな知識を探求していくことが主体となります。
これまでの知識を積み重ねることによって、少しずつ高みを目指すような考え方です。
東洋哲学とは・・
一方で、東洋哲学はそうした西洋哲学の営みとは対極的な位置づけにあります。そもそも、東洋哲学では“無知”を前提としていません。
“私は悟った、究極に達した” ところからスタートしています。
東洋哲学では、開祖が真理を悟り、それを後世の人たちが解釈することで発展していく形をとる。実際に、仏教においては釈迦の教えを弟子達が引き継ぎ、儒教の孔子の教えを弟子が伝えることで、今日まで語り継がれている。
西洋哲学のように、哲学を批判したり、打ち砕くことに躍起になったりしないのが東洋哲学の特徴です。
西洋哲学:ゴールを目指す思考方法
東洋哲学:ゴールしたところからスタートする思考方法
そのため、実際問題として、先人の中に現実と整合しない矛盾や問題を見つけてしまった場合、後世の人間達は「自分たちの解釈が間違っているんだ」、「自分が勉強不足で理解できないだけだ」とその解釈を発展させていきます。
東洋哲学にマッチした日本のセミナー
この考え方は、日本における技術系セミナーによくみられる現象です。
カリスマ的治療家が、参加者の目の前で特殊技術を繰り出し、多くの人を症状を改善していきます。カリスマが、“これをやれば全て治る”と語れば、多くの信者が耳を傾け、その方法に従事します。
自分が師匠の真似をして、治療効果が出なかった場合には、
自分たちの腕がまだまだ未熟だ、勉強不足でできていないからだ
と勝手に解釈していきます。
日本の医療にマッチしやすい東洋思想
実は、東洋思想の治療は日本人と日本の医療にマッチしやすい(ハマりやすい)特徴を持っています。
日本の医療制度は、国民皆保険制度で誰でも気軽に受けれる上に、CTやMRIなどの診断機器が整備されています。また、診察時間は非常に短く、薬を多く出す国としても知られています。そうした環境で何が起こるかというと・・
痛みが起こった時に、病院に行くと画像診断と投薬治療が中心になってしまします。
多くの病院では、画像上に問題が明らかでない場合には、しばらく様子を見てくださいというのが一般的です。
しかしながら、患者の立場になると、今すぐ誰かに治療してもらいたい、誰かに痛みを共感してもらいたいという心理が働きます。
そのため、藁にもすがる思いで、明確に治せると断言してくれる人のもとに通うようになります。
これが、西洋医療の場合では事情が異なります。
アメリカなどでは、根拠をベースに医療が成り立っていますので、明確な診断がつかないと保険の適応にならないことがあります。治療についても、根拠のある治療のみが保険適応になり、治療効果を出せないと医療側にも保険会社から報酬が払われないこともあります。
そのため、米国や欧州での治療系のセミナーでは、医学系論文に基づく神経生理学的根拠をベースに手技が組み立てられているものがほとんどです。
ベースが無いような場合でも、手技を確立した後に自分たちで効果検証して論文に投稿したり、批判的吟味を受けれれる体制が整っています。
考え方の問題
日本人の多くは、東洋哲学的な考え方が受け入れやすいようです。
これが、日本の医療系セミナーが繁盛する理由でもあり、セミナーが宗教っぽいと言われる所以だと思います。
これらの思想の違いは、話し方や接し方でおおよそ見当がつきます。
西洋哲学:説明が論理的、やや冗長。客観的な情報を提供して、選択肢を与える。
東洋哲学:説明は簡潔で明瞭。明確な答えを出して、断定的に話す。
医療の世界は、どうしても一般的な方々には理解できない部分が多いので、明確に答えを提示してくれる方が受け入れやすいところがあります。
思考停止になりやすい状態ですが、患者の思いを代弁しながら、より良い治療を提供できるように考えていく必要があります。
治療者側は、セミナーの特性を理解した上で、知識と技術をアップデートしていくことが大切です。
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