どこまでサイエンスを取り入れるか?
膝を触る・動かすという行為を考えた時に、もちろん手の感覚や動かしたときの感触を頼りに経験を積んでいくのですが、構造や病態をどこまで考えて、サイエンスを取り入れるかは重要な視点です。
今回は、整形外科で訪れる変形性膝関節症(膝OA)に対して、どのようなことを考えて触っていくかを少し考えたいと思います。
例えば、膝に痛みが出たとして、セラピストは痛みの部位を特定して原因を探っていくわけですが、障害としてストレスが生じる部分と構造として痛みを感じやすい部分というのが科学的に明らかになっています。
ヒトの膝の中では、脂肪体と呼ばれる部分や滑膜・関節包と呼ばれる関節の周囲にある組織が痛みを感じやすいことがわかっています。
一方で、実は骨自体にはあまり痛覚が存在しないために膝の変形自体が疼痛を引き起こすとは考えられていません。
実際に、日本で行われたROAD studyと呼ばれる大規模な高齢者の膝を調査した研究においては、60代以上の女性では半数以上が軽度の膝の変形を有していることがわかっており、男性でも30%以上が変形していることがわかっています。
しかし、実際に疼痛を有している変形は1/2〜1/3の程度であり、変形と疼痛が必ずしも一致しないことがわかっています。
病態にも様々なものがありますが、あまり知られていないものの一つに
半月板の亜脱臼
というものがあります。変形して膝関節の隙間が狭くなると、衝撃吸収の役目を果たす半月板が押し出されるという病態がわかっています(超音波画像などで見える)。
この半月板の亜脱臼が痛みと関連していることが明らかになっており、半月板が周囲の滑膜や関節包を刺激することが1つの疼痛メカニズムとして考えられています。
膝周囲の組織をよく観察してみると、関節の周囲には滑液包という関節の動きを円滑にし、筋腱の動きを緩和する組織があります。膝の周囲に炎症が起こったり、筋腱に著しいストレスが続く場合には滑液包が腫れたり、炎症による瘢痕化によって癒着が進むなど、膝関節が固くなる病態が生じてきます。
滑液包の場所を特定・推察することによっておおよその機能障害を検討することが可能となります。
膝と膝蓋骨(お皿)の関係
膝には膝蓋骨という、お皿の骨がありますが屈曲や伸展をする際に、大腿骨上を滑るように動きます。
膝をある角度で曲げた状態では、膝蓋骨の特定の面が接することが教科書的に書いてあるところです。
しかし、実際に最先端のMRIなどによって、個々の関節面の接触具合をみてみると、個々によって接触する部分は異なり、個体差が大きいことが分かっています。
膝蓋骨を動かす時にも、膝蓋骨と大腿骨の接触具合や裂隙(スペース)の状態に応じて、大腿や下腿の捻れを調整することで、過剰な接触を調整することが可能となります。
大腿四頭筋とハムストリングスの関係
膝の関節面の接触は、周囲の筋肉の張力バランスによっても変化します。
膝に関与する最も強力な筋肉が
大腿四頭筋とハムストリングスです。
膝の前面にある大腿四頭筋と後面あるハムストリングスの張力バランスと膝の屈曲角度、下腿の捻じれ具合によって、骨同士の接触部分は変化してきます。
これを、細かく評価することができるようになると、変形が進んでいる部分を特定したり、ストレスが生じやすい部位を探ることができます。
こうした骨同士の接触部位については、膝関節の変形度合いによって変化し、健常者と比べて接触部位が後外側方向に移動しやすい報告がなされています。
このように、ただ膝を触る・動かすという動きだけでも、その人の病態を把握して動かすことが重要です。どのような変形があり、どのような筋肉が働き、どのような運動を行うかによってストレスがかかる部位が変化するということです。
ある程度のレントゲン・MRI・超音波画像のデータと経験を重ね合わせていくことによって、より精度の高い推察ができるようになります。
多くの膝を触り、多くの画像に触れ、仮説ー検証作業を重ねることによってよりよい治療が可能となります。
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