これまで、多くの研究が行われていますが本当の意味で障害予防に成功した研究はありません。
本当の意味でというのは、全ての対象者において障害をゼロに出来た研究がないという意味です。
一方で研究者にとって、障害予防に成功した研究は多く存在します。
この予防プログラムを実施して54%の相対危険度というのは、図に示すと
全体としては予防プログラムを実施した方が障害発生の数が減っているので、予防プログラムとしては成功としてカウントされます。
一方で、実際に予防プログラムを実施して障害が発生した対象者が存在しているという事実です。
1年以上の追跡調査で、100人以上の対象者で行った介入でゼロになった研究は存在しません。
しかも、多くの研究は1シーズンの経過を追っているものなので、数年かけて効果が出ているのかを判断できません。
全体を考えるか、個人を考えるか
前回もお伝えしたように、研究者は全体の数字で結果を判断します。研究を行う際には、全員に対して必ず同じプログラムを提供しなければいけません。全員に同じものを与えなければ、そのプログラムが多くの人に対して効果的であるかを判断することはできません。
一方で、研究視点で考えている限り、個別のプログラムを組み立てることはできません。
障害予防プログラムを行うことによって、障害が発生した対象者が存在するということは、
極端な解釈をすると
障害予防プログラムによって障害が発生した
とも考えることができます。
着想に至った経緯
障害予防プログラムに対して、上記の捉え方に至ったのは個人的な体験が大きく影響しています。
私自身、サッカーをしていて、膝の半月板手術を2度(切除術と縫合術)、前十字靭帯再建術を1度経験しています。
半月板や前十字靭帯の復帰プログラムはほぼ決まっています。膝の捻りを誘発する下肢のアライメント(下肢の位置や使い方)を矯正して、筋力強化を図るのが通常のメニューです。
リハビリメニューを実施している時に、膝の使い方を散々指導されたのですが、使い方を矯正するとかなりの違和感が出ます。違和感が出ないくらい、自動化できるまで矯正できればいいのですが、ヒトの神経の配線を変えるのは非常に時間がかかります。
動作が安定しているもの(野球のピッチング、ゴルフのスイング)に関しては比較的フォームを変えやすいのですが、動作が環境によって変化するもの(サッカー、バスケット、バレー等)は、安定した動きを獲得しにくいと感じます。
絶対的に正しい動きを定義することは、極めて難しい作業です。個々の筋骨格の狀態や身体の使い方(神経系)を考えた上で、動きを作ることが重要だと考えられます。
増加し続ける障害の発生要因
障害発生要因は、非常に多岐に渡ります。これらの要因については、専門家であれば把握できるのですが、現場の指導者は十分に把握できません。
まず、問題点を明確にできないことが問題です。
実際に、前十字靭帯損傷は2000年前から報告されていますが、歴史上前十字靭帯損傷がゼロになったことがありません。
一番の問題は発症要因が多すぎることです。
前十字靭帯損傷を例に挙げても
少なく挙げても、上記の数は存在します。
さらに、面倒なのが研究をすればするほど、新しい障害発生要因が生まれるという悲惨が現実です。
例えば、上記にもある前十字靭帯損傷における体幹の固有感覚というのは・・
座位の状態で骨盤が前後に動くのを制御するための能力で、特殊な機械を使わなければ測定することができません。
しかも、こういった研究は世界の一流雑誌に掲載されているため、専門家の間では事実として受け入れなければならない問題が生じます。
そのため、新しい発症要因が生まれてくるということは、解決しなければいけない問題が増え続けるということです。
どんなに下半身の筋力を強化して、膝の外反といったアライメントを修正しても、体幹の固有感覚が改善していなければ、発症リスクを下げられないという問題を生み出してしまいます。
研究者はよかれと思って、新しい測定方法を開発し、新しい問題を発掘していきます。
しかし、現場にとっては、問題を増やしているだけという現実があります。
障害予防を邪魔する犯人は・・
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