タレント発掘と早期のスポーツ専門化

タレントを発掘するためには、実際に成功している事例を検証することと成功しやすい要因や失敗しやすい要因を知っておくことが必要です。

また、タレント発掘に伴う弊害についても理解しておきたいところです。

イギリスのタレント発掘の実際

ロンドン五輪で成功を収めたタレント発掘・育成事業ですが、実際に分かっていることをまとめていきます。

イギリスの各地から約7000名を超える対象者をテストして、その中から育成システムに採用された人材が100人程度です。その中から、国際大会で活躍したのが約半数、オリンピックに出場できたのが10名と報告されています。

その結果、実際のロンドン五輪でメダルを獲得したのがボート競技の金メダリストの1名という結果です。メダルの獲得は7000分の1という結果です。

ロンドン五輪以外にもタレント発掘・育成に成功した事例が少数ではありますが報告されています。

その中で分かっていることがいくつかあります。

それは・・

実は、発掘の段階で勝負できる競技を予め選択することで、選択と集中の原理によってオリンピックの成功を目指していたのです。

多くの人が、タレント発掘をすべての競技に対して行っているように思っていますが実際には戦略的に取り組まなければ効果はでないのです。

早期のスポーツ専門化とは・・

スポーツ科学の世界では、幼少期から1つのスポーツに特化して、練習量を重ねていくことを『早期スポーツ専門化』と呼びます。

この早期のスポーツ専門化に関する研究は、世界中で取り組まれています。

実際に分かっていることを紹介します。

早期のスポーツ専門化が有効な競技では、バランスや柔軟性が重要な競技であり、体格が小さくても勝てるう要素がある競技では、幼少期からの専門的な取り組みが効果的であることが知られています。

実際に、これらの競技は親の影響が強く、卓球や体操などは親が昔競技者であり、家族が教室を開いているなど、遺伝的にも環境的にも競技に取り組みやすい状況であることが、有利に働いていると考えられます。

逆に言うと、これらの競技以外では早期のスポーツ専門化の効果はあまり認められていません。

早期スポーツ専門化の実態

早期に始めるというのは、幼少期からということになりますので

年齢的に言うと思春期前(12歳〜15歳以前)の段階になります。

細かいデータはたくさんありますが、ボール競技に関しては低年齢でプロに進む選手がほとんどいないことが明らかになっています。

競技転向でのタレント発掘が成功する競技は限られていて、必要とされる能力がモデル化しやすい特徴があります。

早期スポーツ専門化の罠

幼少期から同じスポーツに偏った経験は、多くの場合に弊害をもたらします。

1つの競技に集中して取り組みと、同じ動きが繰り返されるため、同一部位に負担がかかり、障害の発生が多くなります。実際に、幼少期に2つ以上のスポーツを兼ねて活動をしている(マルチスポーツ)選手と1つのスポーツに特化して練習している選手では、障害の発生が20〜30%高くなることが報告されています。

また、早期から取り組むとその競技で後から始めた選手に記録で追い抜かれば場合に自信を失い、バーンアウトを起こしたり、その競技自体を辞めてしまうケースも少なくありません。

早期のスポーツにおいて取り組むべきことは、

スポーツ自体の楽しさを感じ、多様なスキルを発達させるための基本的運動能力を養っておくことです。

個々の発達段階に応じた接し方が必要であり、早期のスポーツ専門化の罠に陥らないように選手を指導していくひつようがあります。

1.         Ahlquist, S., B.M. Cash, and S.L. Hame, Associations of Early Sport Specialization and High Training Volume With Injury Rates in National Collegiate Athletic Association Division I Athletes. Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 2020. 8(3): p. 232596712090682.

2.         Fabricant, P.D., et al., Youth sports specialization and musculoskeletal injury: a systematic review of the literature. Phys Sportsmed, 2016. 44(3): p. 257-62.

3.         Rongen, F., et al., Are youth sport talent identification and development systems necessary and healthy? Sports Medicine – Open, 2018. 4(1).

4.         Jayanthi, N.A., et al., Sports-Specialized Intensive Training and the Risk of Injury in Young Athletes. The American Journal of Sports Medicine, 2015. 43(4): p. 794-801.

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