現場で使えない残念な研究者

アスリートにおいて科学的な思考で物事を考えることは重要です。

科学的思考とは、物事に対する理由付けのようなもので、自らの行動や思考を説明づけるものです。

例えば、野球選手がボールの球速をあげるための科学的な方法とは何か、ラクビー選手が筋量を増やすための科学的な方法は何か、といったようにある目的に対する答えを探すための方法です。

科学的な思考法はアスリートにとって有益なものですが、現場に研究者が入り込んでいることが少ないのが現状です。

なぜ、科学者は現場に入れないのか?

今回は、科学者が臨床現場で使われるために気をつけるべきポイントについて話したいと思います。

一般的に一流の研究者・科学者が現場に出て指導する場面は極めて少ないのが現状です。これは、第一線で活躍する指導者と研究者の思考の違いが大きく関与しています。

まず、現場の指導者が求めていることは・・・

指導者の求めること

・自分の選手が強くなる方法を知りたい

・すぐに効果が出るものを知りたい

・シロクロはっきりしたことを使いたい・伝えたい

・自分の仮説(考え)にあった根拠を示して欲しい

対する研究者が考えることは・・

研究者が考えること

・選手の特徴を数値化したい

・万人に適応できる理論を示したい

・全員に同じ方法で介入したい(しなければならない)

・シロクロした結論を出さない

・自分の仮説を証明したい

指導者は選手を見ることが中心ですが、研究者は数値をみることが中心となります。

一流の研究者になるためには、研究で得られたデータから考察して、文章化することによって、論文を作成する必要があります。論文を作成して、業績を積み重ねなければ研究者としては全く評価されません。

研究者は、データを文章化する必要があるので言語的能力に優れ、抽象的な表現や具体的な例(比喩)を使うことを避けるようになります。言葉の定義や使い方に厳しくなります。

また、何を行うにも根拠をベースにして行いたくなるのが性分です。

ストレッチを例に・・

学校の先生方170名程度にとったアンケート結果があります。

Q. スポーツ傷害の原因として関連が強いものを挙げて下さい。

圧倒的な第1位は 身体が硬い です。

Q. これに合わせて、傷害予防方法で知っているものを挙げてください。

多くの学校の先生(指導者)は、障害予防の方法をストレッチしか知りません。

学校から依頼される 障害予防の講演=ストレッチの指導 という図式が成り立ちます。

これに対して、科学者が講演を行うとすると・・

この根拠を振りかざして、

ストレッチって科学的に効果は証明されていないですよ

by 科学者

って言っちゃいます・・。

現場では、使い物にならないですね。

ストレッチがエビデンス(根拠)を示せない理由

研究の結果だけを解釈すると、本質からズレてしまいます。

ストレッチが根拠を示せない理由は、対象と研究の方法に課題があります。

研究を行う原則として、多くの対象者に対して同じ介入(ストレッチ)を行って、集団として結果があったかどうか で効果を判定する必要があります。

つまり、効果がある人もいれば、効果がない人もいて、全体の平均としてはどうなのか? ということです。

根拠がないというのは、平均的には意味がなかったというだけのことです。

集団を考えた場合、ヒトの集団は正規分布を示すと仮定されて統計処理をされます。正規分布というのは、身体がすごい硬い人が一定数いて、逆に身体が柔らかい人が一定数いて、中間的な人が圧倒的に多い分布のことです。

この一般的な集団に対して、ストレッチを行うと身体が硬い人にとっては有益かもしれませんが、身体が柔らかい人にストレッチをすると身体が柔らかいすぎて障害を招いてしまう危険もあるということです。

実際に、身体が柔らかすぎる現象は、関節弛緩性(Joint Laxity)と言われ傷害の危険因子と考えられています(下図)。身体が柔らかいと言っても、筋肉が柔らかいのか関節が柔らかいのか、によっても異なります。

関節弛緩性の検査(指が前腕についたり、肘が反ったり、手のひらが床にぴったり着くなど)

実際には、身体が硬すぎる場合や運動強度によって柔軟性が変化している場合にはストレッチは有効だと考えられますし、全く意味がないとは言えません。

逆に身体が柔らかいすぎる場合には、ストレッチよりも簡単なウエイトトレーニングをアップにいれることで、筋肉を固めて安定性を保った方が効果的な場合もあります。

研究者の最大の欠点は・・

研究の方法として、個別性を無視する必要がある ということです。

個別のアスリートに対応する時に全体の結果はあまり必要ありません。選手は、自分自身のことを知りたいので、個別性のある対応が必要なのです。

研究者の最大の欠点

研究者の最大の欠点は・・

確信がないと貫けないこと

研究者は、様々な結果をもとに良い悪いを判断します。そのため、多くの情報を取り入れるのですが、基本的に研究は調べれば調べるほど結論が出しにくくなります。

その理由は、例えばストレッチの研究を集めてくると、効果があるという論文と効果がないという論文が出てくるので、いろいろな研究をまとめてレビューという作業をする必要があります。多くのレビューを行うと、ほとんどの結論は まだ明確な結果はわからない という形に落ち着きます。

そのため、研究者は確信を持って指導を行うことができません。つまり、自信を持って選手に断言できないのです。

一方で、情熱のある指導者はある種の狂気に晒されていますので、自分がこの方法が最適だと判断すれば、選手に断言して遂行させる力があります。

指導者は科学的思考を持ちながらも、最終的には自分が選択したものを確信に変えて指導する必要があるのです。

研究者・科学者はアスリートに何をすべきか?

研究者が現場に必要とされるには?

・指導者、選手の信じる道を肯定するデータを提供する

・客観的データを選手に合わせて、加工・調整する

・結果をある程度明確にした形で、選手を納得させる力を持つ

基本的には現場が欲しいと思うデータを、現場に利用しやすい形に調整ながら研究は行う必要があります。方法を統一したり、介入を統一したりすることは、現場からするとあまり意味を為しません。

信頼を気づいてから、自分の気になるデータは測定するべきです。

現場に求めらる研究者を目指そう‼️

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