選手の理解度を知る簡単な方法とは?

指導者は選手に説明をして、望ましい方向に導いていくのが仕事ですが、実際に選手が自分の言ったことをどの程度理解しているのかを考えることは少ないのが実状です。

個人的な経験から、多くの選手や学生に対して講義する機会がありますが、教えられた側がどの程度理解しているのかを確認する機会はあまりありません。

私が講演の最初にいつも使うスライドです。

このスライドの背景は学習ピラミッドと呼ばれる、教育界ではよく使われるモデルから引用したものです。

ヒトの話は5%程度しか記憶に定着しないことを前提に講義を組み立てることが必要です。

Learning Pyramid|台湾にゃも。海外でちゃいなよ

今回は、選手や学生が教えたことをどの程度理解しているのかを知る方法を紹介します。

一番簡単な方法は、ノートを取らせる

選手の理解度を知るためには、ノートやメモを取らせることが最も簡単で効果的な方法です。

ノートを見れば、選手の理解度は一目瞭然です。

ノートを取る=理解を言語化する作業

今回は、ノートの取ることについて科学的に解説していきます。

ノートを取るのは高度な能力が必要

ノートやメモを取る能力というのは、脳の構造から考えると非常に高度な能力です。ノート取るためには、人の話をよく聞いて、その話の中から、重要なポイントを自分で整理して、書くという行為でアウトプットをしなければいけません。

脳の中では、見ること(視覚野)、聞くこと(聴覚野)、考えること(前頭前野)、言葉にすること(言語野)、書くこと(運動野)など、多くの脳の機能が不可欠です。

そのため、講義する側になった場合に、教わる側のノートを覗き見ることでおおよその理解度は把握することができます。

ノートを取るのはいかに難しいか?

例えば、ノートを取ることがいかに難しいかを調査した研究があります。

その研究では、講義中のノートを取ることは教科書を読んだり、自ら学習することよりも認知的な負荷(努力量)が高いことが分かっています。

これは、頭を使うチェスなどのゲームよりも労力を要します。

言われていることをノートに写すだけだと思われがちですが、ノートを取るという行為は、自分でイチから文章を作成するのと同じくらい難しい作業なのです。

インターネットを使いこなせない若者たち

情報化社会に移り変わり、基本的に欲しい情報はインターネット上に探せばいくらでも落ちている時代になっています。

元外交官の佐藤優氏は

インテリジェンスの99%は公開情報から入手可能

と言っているくらいです。

しかしながら、実際に欲しい情報をインターネットから効率よく収集できる選手は非常に少ないのが現状です。

その理由の1つが、情報流通量の多さです。

インターネットで情報が増えるに従って、どの情報が必要なのかを自分で探索して、実際に正しい情報を選択するためには、過大の労力がかかります。

実際の研究でも、ウェブサイトからノートを取るのと、2ページのプリントからノートを取るのでは、2倍以上の負担が違うことがわかっています。

インターネットには、情報がたくさんあるため情報を選択するためには、脳に過剰な負担がかかるため、情報処理や情報編集に慣れていない人にとっては相当なストレスなのです。

有名な研究に、スーパーマーケットに20種類以上のジャムが置いてある場合と6種類のジャムが置いてある場合では、6種類の置場のほうが売上が伸びたというものがあります(シーナ・アイエンガー,選択の科学, 文春文庫)。

情報が多すぎる場合には、処理が追いつかずに思考停止になってしまうのです。

認知的な負荷が大きいので、ノートを取ったりすることを避けていく傾向にありますが、記憶に定着させるには手書きの方が効果的であることがしめされています。

パソコンでタイプ入力をする場合のほうが、文字の入力が早くなり、文字数も多くなる傾向があるのですが、同じ文字を反復して使いやすい傾向にあります。

実際の試験の成績を比べると、手書きでノートに書いた群の方が良い成績であったと報告されています。

予備校の講師はなぜ板書なのか?

ノートを取ることは理解度を高めるために有効であり、指導者側からすると選手がどの程度理解しているのかを客観的に知るための有効な手段です。

また一方で、教える側も手書きで教えた方が学生の理解度が上がることがわかっています。

パワーポイントや配布資料での講義に関しては、あらかじめ理解度が高い学生にとっては有効なのですが、理解度が低い学生にとっては動きが大きい板書の方が効果的です。

スライドを流すだけの授業や講義が増えてきていますが、ヒトはヒトの動きに反応しやすく、書き終わっている文字よりも現在進行形で書いている文字のほうが注意が向きやすい傾向にあります。

そのため、実際の講義では板書をしながら要点を強調した話し方の方が注意が向きやすく、重要なポイントを理解しやすい利点があります。

予備校の一流講師が、いまだに板書を使用して講義を行うのは、理にかなっているということです。

選手のノートを見てみよう!

実際に練習ノートなどをつけている部活動も多いかと思いますが、文章にさせることによって日々の練習に対するフィードバックができるだけでなく、考えていることや注意して取り組んでいるポイントが明確になるため、言語化する習慣としては非常に重要な取り組みです。

1.         Jansen, R.S., D. Lakens, and W.A. Ijsselsteijn, An integrative review of the cognitive costs and benefits of note-taking.Educational Research Review, 2017. 22: p. 223-233.

2.         Mueller, P. and D. Oppenheimer, The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking.Psychological science, 2014. 25.

3.         Piolat, A., T. Olive, and R.T. Kellogg, Cognitive effort during note taking.Applied Cognitive Psychology, 2005. 19(3): p. 291-312.

4.         Van Moort, M.L., A. Koornneef, and P.W. Van Den Broek, Differentiating Text-Based and Knowledge-Based Validation Processes during Reading: Evidence from Eye Movements.Discourse Processes, 2020: p. 1-20.

5.         Lee, T.D., S.P. Swinnen, and D.J. Serrien, Cognitive Effort and Motor Learning.Quest, 1994. 46(3): p. 328-344.

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