怪我をする本当の理由は・・

意外に知られていないのですが、怪我をする本当の理由は

無意識に頑張りすぎているからです。

ヒトは自分をコントロールできていない

ヒトの動作における力の加減についての興味深い研究があります。

Melguin HP et al. Baseball Pitchers’ Perceived Effort Does Not Match Actual Measured Effort During a Structured Long-Toss Throwing Program.Am J Sports Med. 2019 Jul;47(8):1949-1954

この研究では,

野球の投手が、3段階の力加減(全力、75%、50%)でボールを投げるように指示されました。

各投手は、最大努力、75%努力、50%努力の3つの段階で120フィートの距離で5回投げました。投げる測定基準を3つのレベルの労力で比較して、25%減少するたびに、肘の内反トルクボール速度が比例して減少するかどうかを確認しています。

結果

75%の場合、肘の内反トルク最大93%、速度は最大86%

50%の場合、肘の内反トルク最大87%、速度は最大78%

 意識して25%ずつ減少させようとしても、実際には肘の内反トルクは7%しか減少せず、速度も11%しか減少していません。

この研究からわかることは、

半分くらいの力で動作を行ったとしても、70〜80%の力を無意識に発揮してしまという事実です。

それくらい、無意識の動きはブレーキがかけにくいということです。

コントロールできること or できないこと

ヒトの運動は自分でコントロール〝できるもの〟と〝できないもの〟があります。

自分で身体をコントロールできなくなった時に、怪我は起こります。

一番わかりやすい例は、野球のダイビングキャッチです。

ダイビングキャッチは、ボールを全力で追いかけ、前方に身体を投げ出してジャンプすることでボールを取りにいくプレーです。動物の本能として、ボールを全力で追いかける際には、ボールには注意が向きますが、周囲の状況には注意が向かないことが多いです。

これは、脳の習性でもあり、あることに集中すると注意を配分することができない状態に陥りいります。

引用 イラストAC フリーカット

結果として、同じボールを追いかけている選手と衝突したり、芝生やフェンスに衝突して怪我を起こしてしまいます。また、上肢が先行して動くので、多くの衝撃を上肢で受け止める必要があるので、下肢に比較して、上肢の構造は弱いので障害のリスクが高くなります。

一方で、スライディングキャッチでは怪我のリスクが極端に低くなります。構造的に強い下肢が先行して動いており、体幹が安定した状態で上肢が動かせるので

引用 イラストAC acworks

怪我をしなかったイチロー選手が、ダイビングキャッチやヘッドスライディングをしないことは有名な話です。

過剰なウエイトトレーニングをしないなど、自分の身体を自分でコントロールできないことは極力しないことが、安定したパフォーマンスと障害予防には重要です。

身体を動かすアクセルとブレーキ

ヒトの身体は絶えず、筋肉を上手く動かしてバランスを取ったり、目的の動きを遂行しようとしています。

筋肉を動かすためのアクセルとブレーキを行うのは、脳の役割です。

一般的に、筋肉を思い通りの方向に動かすアクセルの働きは、求心性収縮という筋肉を縮めながら使う動かし方で、ブレーキをかけるのは遠心性収縮と考えられています。

アクセルとして機能する求心性収縮は、脳の中でも大脳皮質と呼ばれる意識して使う部分をあまり必要としませんが、ブレーキをかける遠心性収縮は大脳皮質の部分をよく使います。

脳の使い方

求心性収縮 → 中脳・脊髄レベルで可能 → 無意識:速い動きに対応

遠心性収縮 → 大脳皮質レベルで制御 → 意識的:遅い動きに対応

アクセルを全開に踏んでしまう状態は、脳の無意識領域を強く使うことになるので、運動の制御が難しくなってしまいます。

運動と認知の干渉

また、運動が無意識化しやすい状態の一つが、認知的な作業が増える時です。

状況を判断したり、ボールを追いかけたり、何かに夢中になっている状態では大脳皮質の部分が認知の作業に取られるため、運動は無意識化され、自動的に行われるようになります。

脳は機能分化が進んでいるため、役割毎に働く場所が決まっています。複数の作業を同時に行おうとすると、どちらかの作業効率が落ちるのが普通です。

動作を行う時に、何かに集中したり考えたりすることは、自らの運動機能を下げることに繋がるのです。

理想としては、頑張りすぎない

怪我をしないためには、頑張りすぎない状態でも高いレベルでプレーできるようにすることです。

限界以上の力を出そうとすると、身体は制御できなくなります。大脳の皮質の部分は、基本的に身体が壊れないように抑制をかける役目を果たしています。抑制が外れると、信じられないような力が出るようになりますが、制御できないため、怪我のリスクは圧倒的に高くなります。

例えとして、無意識の力を象に、意識の力を象使いに例えることがありますが、無意識の力を上手に使いこなすことが、怪我を防ぐためには必要になります。

引用:illust AC acworks

無意識の力を上手に使いこなそう!

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